金曜日。H先生の後任として、今日はB先生が来て下さいました。183cmという長身で、以前は水泳選手をされていたそうです。
よろしくお願いします。
毎週木曜日の勉強会では、『MGH麻酔の手引き』の原書を読み合わせていますが、今週は、モニタリングの章でした。そこで、現在手術室で使用されているモニターについての話を少しばかり。
心電図、自動血圧計、パルスオキシメーター、呼気ガス分析あたりが、日常よく使用されるモニターでしょうか。自動血圧計は、かつては、手で加圧した送気球からマンシェットに空気を送り込んで、水銀マノメーターによる圧を目で見ながら、いわゆるコロトコフ音を耳で聞いて測定していました。この血圧測定を含めると、一番古いモニターは血圧計ということになります。
コロトコフ音の発見者は、ロシアの軍医コロトコフでした。彼は、わずか1ページにも及ばない短い論文の中で、「上腕を駆血したカフの圧を徐々に減じたときに、カフの下流で血管音が聞こえ始める。この圧力が、その患者の最高血圧に相当する」と述べました。
これが、20世紀の初頭、1900年頃のことでした。ウィリアム・モートンがMGHの講堂で初めての公開麻酔を披露したのが、1845年のことですから、麻酔という医療行為は、モニターに先がけて行われていたことになりますね。
心電図は、当初は、検査用の心電計として世の中に登場しました。心臓の電気現象の記録に成功したのは、今から120年くらい前のことですが、これが、手術室の中の心電図モニターとして普及してきたのは、意外に遅く、1960年代になってからのことです。
心電計普及のきっかけとなった機種の一例 (1949年頃:現フクダ電子、A-1型) 臨床モニター Vol.2.(2)1991.より |
パルスオキシメーターの原理は、日本人の青柳卓雄氏によるものであった、という話は有名ですが、この原理を応用して手術室内でのモニターを開発したのは、アメリカの技術者でした。今では、手術室やICUでのモニタリングのみならず、救急室や病棟でも、血圧、脈拍、体温などのバイタルサインと同時に、SpO2を記録するのが当たり前のようになってきていますが、機器がポータブルになって普及したのは、1980年代以降のことなのです。
オキシメータOXIMET MET-1471(1977年5月発売) 久保田博南『生体情報モニタ開発史』(真興交易医書出版部)より |
呼気ガスモニター(カプノメーター)は、麻酔中、換気の指標としての呼気ガス中の二酸化炭素濃度測定に使用されますが、低流量麻酔時の吸入麻酔薬の呼気ガス濃度を知るためにも必須のモニターとなりつつあります。これも、1980年代には、まだまだ器械が大きく、高価な研究測定機器という側面が強く、手術室内で普及し出したのは、1990年代に入ってからのことでした。
1988年発行の書籍 序文で「カプノメーターは、いまや欧米では、 その使用が義務づけられた国が存在するほど 重要性が認識されてきている。しかし、残念ながら わが国での普及はいま一歩である」 と宮坂先生は述べています。 |
今では、こうしたモニタリングなしの麻酔(とりわけ全身麻酔)というものは考えられません。でも、わずか半世紀前には、手動血圧計と粗末な心電図モニターだけで麻酔をしていたのですね。