T先生は、将来は放射線科医を目ざしておられるそうです。
放射線科では造影剤によるショックが起こることがあり、ときには気管内挿管をして気道確保しなければならない局面に遭遇します。ですから、以前の卒後単科研修時代にも、放射線科から麻酔科へローテートされてくる先生方は、けっこう真剣に麻酔科研修に取り組んでおられました。
手術室以外での蘇生時には、バッグバルブマスク(BVM)法といって、手動の蘇生バッグで換気をする場合があります。このバッグのことをアンビューバッグと呼ぶことがありますが、実はアンビューバッグというのは、商品名です。Ambu社が作った蘇生用バッグであって、一般名ではないのです。
このAmbu社が作った蘇生バッグには、ふたつの特徴があります。ひとつは、バッグを押しつぶした手を離すとバッグがひとりでに膨張するということ。
英語では、self - expandingとかself - inflatingと表現します。
蘇生バッグで換気しているときに、バッグが膨らむのは、麻酔器のバッグのように、患者の呼気がバッグに戻ってくるからではありません。
バッグはあくまで勝手に膨らんでいるのです。
もうひとつの特徴は、マスクの近くとバッグのお尻の方についているふたつの一方弁です。このふたつの一方弁のおかげで、換気のときに、ガスの流れが一方通行になっているのです。
すなわち、バッグを手で押しつぶしたときに、マスクを通して患者側にガスが流れ込み、手をゆるめるとバッグが勝手に膨らんで、お尻側からガスをバッグ内に吸い込み、このとき同時に患者の呼気は、もうひとつの一方弁を介して外気へ排出されているのです。
呼吸回路の形式からいうと、これは、非再呼吸式の呼吸回路に当たります。
上:吸気時。バッグを押すとガスは患者へ 下:呼気時。バッグを離すと、一方弁を介して、患者呼気は外気へ 同時に、お尻側の一方弁が開いて、勝手に膨らんだバッグ内へガスが流入 |
麻酔器の呼吸回路は、患者の呼気がソーダライムで二酸化炭素を除去された後、一部が再呼吸されているので、蘇生バッグの換気様式とは異なります。麻酔器では、患者の呼気が、バッグの中に戻ってくるので、バッグが膨らまないときには、どこかでリークがあることを疑うべきなのです。