水だしコーヒーは、別名ダッチコーヒーと呼ばれます。
かつてオランダの植民地であったインドネシアでは、おもにロブスタ種のコーヒー豆が栽培されていました。このロブスタ種は、通常のドリップ方法で抽出すると、かなり強烈なコーヒーになるので、水で抽出していました。オランダの植民地で最初に作られたので、水だしコーヒーがダッチコーヒーと呼ばれるようになったのだそうです。
インドネシアでは、現在見られるような、ガラス製の筒の中にスパイラルを取りこんだような器具をはじめから使っていたわけではなく、竹を使ったししおどしのような原始的な道具を使っていたと考えられているそうです。
(田口謙『コーヒー 味わいの「こつ」』[柴田書店]より)
スターバックスやタリーズで出されているスペシャルティコーヒーは、アラビカ種という豆です。これは、煎り立て、挽き立て、淹れ立てのホットコーヒーが一番おいしいと言われています。一方、ロブスタ種というのは、アラビカ種に比べると安価で、通常インスタントコーヒーや缶コーヒーの原料とされている品種です。
水だしコーヒー の抽出器 |
田口謙氏によれば、「水だしコーヒーは、普通の抽出法でいれたのでは欠点が目立ってしまうような豆でコーヒーを抽出するために工夫された方法」なのだそうです。ロブスタ種のコーヒー豆では、通常の温度の湯で抽出すると、独特の味や香りが強烈に引き出されてしまうので、その代わりにたっぷり時間をかけて、できるだけ良質成分のみを抽出する方法として考え出されたのが、水だしコーヒーなのだそうです。(田口謙 前著より)
ところで、このコーヒーの良質成分というのは、具体的には、どのような物質をさすのでしょうか?
コーヒーというと、まず、苦みが頭に浮かびます。
この苦みの中心成分はカフェインです。カフェインには興奮、覚醒、利尿作用などの効果があります。コーヒーを液体クロマトグラフィで分析すると、苦みの成分としては、カフェインの他に、タンニン、クロロゲンなどが含まれているそうです。(広瀬幸雄『工学屋の見たコーヒーの世界』[いなほ書房])
広瀬氏は、これらの物質を単独で水溶液にして飲んでみたそうですが、ただ苦いだけであったそうです。
コーヒーの酸味は、クロロゲン酸を主体とし、その他の酸類(たとえばリンゴ酸、クエン酸など)から構成されているそうです。
いずれにしても、成分をばらばらに分解しても、コーヒー独特の味や香りは説明できないようです。
岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』 (宝島社) |
『珈琲店タレーランの事件簿』に出てくる主人公は、京都の二条富小路付近のタレーランという喫茶店で、理想のコーヒーの味に出会いました。もちろん、この店は架空の店ですが…
理想のコーヒーというのがどのようなものなのか、なかなか想像できないのですが、忘れられないコーヒーの味というのは、これまでに幾度か経験したことがあります。
銀座で偶然入った喫茶店で出されたコーヒー(ペーパーに入れた豆に銀のポットから注ぐマスターの姿は覚えているのに、店の名前を忘れてしまいました)、かつて河原町三条にあったちきりやという店で出されたフレンチコーヒー、そして湯布院の天井桟敷でモン・ユフというチーズケーキとともに飲んだ自家焙煎コーヒー。
不思議と、これらのコーヒーは、飲んだ情景まで記憶に残っているものですね。
天井桟敷のモン・ユフと自家焙煎コーヒー 確か、滑車でお盆を吊り上げて。 コーヒーとチーズケーキが届けられました。 |