2013年6月30日日曜日

気化器の体重の比較検討

 夏の健康診断の季節がやってきました。7月に入ると、病院の職員は、全員健康診断を受けます。
 そこで、麻酔器についている気化器も体重測定をしてみました。ときどき、麻酔器の気化器をデスフルランからセボフルランへ、あるいはその逆の交換をすることがありますが、明らかにセボフルランの気化器の方が重いようです。

 産婦人科においてある、新生児の体重測定用のはかりをお借りして、二つの気化器の「体重」を量ってみました。
デスフルランの気化器
6.8 kg


セボフルランの気化器
8.7 kg


 結果、デスフルランの気化器は6.8 kg。セボフルランの気化器は8.7 kgでした。人間で言うと、デスフルランの気化器は4ヶ月程度の赤ちゃんの重さ、セボフルランの気化器は9ヶ月程度の赤ちゃんの重さに相当します。見た目はセボフルランの気化器の方がスリムであるだけに、密度はずっと大きく、セボフルランの気化器の方が、持ったときに重量感があります。

 ところで、今日6月30日は、一年のちょうど折り返しの日。京都では、この日に水無月という和菓子を食べる習慣があります。
黒砂糖の水無月(上)と白い外郎の水無月(下)

 本来は白い外郎生地に小豆をのせて、三角形に切られています。三角形なのは、暑気をはらう氷室の氷に見立てているからなのだそうです。水無月の上の小豆については、悪魔払いの意味があるという説もあります。
 今は、白い外郎だけではなく、黒砂糖味や抹茶味のものも売られています。

2013年6月29日土曜日

ゆるキャラデザイン考

 毎週水曜日に応援に来ていただいているO先生は、一度は美大を受験しようとしたことがあるそうです。今でも、ときどき絵を描いておられます。
O先生の最近の作品
彩色前のサンジ・ルフィーと
彩色済みのチョッパー


 先日は、石膏をワンピースのキャラクター型に流し込んで、水彩絵の具で彩色したマスコットを作られました。仕上げには、透明のマニキュアを使っているとのことでした。
マンガの絵をデフォルメして
ほぼ二頭身くらいになっていますね














 今、京都市立病院内のそこここには、「全国安全週間」のポスターが掲示されています。全国自治体の、いわゆるゆるキャラを「0」の文字の上に重ねたデザインです。

 このゆるキャラが現れたのは21世紀に入ってからでしょうか?ゆるキャラと命名したのは、漫画家・エッセイストのみうらじゅんさんだそうです。みうらさんは、2004年に『ゆるキャラ大図鑑』という本を出していますが、ここでは、自薦した全国のゆるキャラ100選が紹介されています。
 みうらさんによれば、ゆるキャラの定義は次のようなものです。
みうらじゅん『ゆるキャラ大図鑑』(扶桑社2004年)

 「ゆるキャラとは全国各地で開催される地方自治体主催のイベントや、村おこし、名産品などのPRのために作られたキャラクターのこと、特に着ぐるみとなったキャラクターを指す。日本的なファンシーさと一目見てその地方の特産品や特徴がわかる強いメッセージ性、まれには、郷土愛(ラブ)に溢れるが故に、いろんなものを盛り込みすぎて、説明されないと何がなんだか分からなくなってしまったキャラクターもいる。キャラクターのオリジナリティもさることながら、着ぐるみになったときの不安定感が何とも愛らしく、見ているだけで心が癒されてくるのだ」そうです。
 ことに、最後の「癒し」というのがけっこう大きなウェイトを占めているようです。

 では、この「癒し」感は、一体どこから出てくるのでしょうか?
 先のO先生のワンピースのキャラクターでは、実際のマンガの姿よりも頭が相対的に大きくデフォルメされています。この[頭:体比]を変えるだけで、「癒し系キャラ」になるようです。すなわち、二頭身から四頭身あたりが第一条件のようです。四頭身というのは新生児の体型ですね。赤ちゃんのような姿は自然と癒しの対象となるのでしょうか?
ドイツ人(Detlf Kersten)による赤ちゃんのイラスト

 次に、目。けっこうパッチリと大きな目のキャラクターが目立ちます。しかし、目の大きさは「可愛さ」の表現にはなっても「癒し系」にはならない場合もあります。それよりも、けっこう大事なのが目と目の幅です。これが広いと、「どことなく癒されるわ」という印象をもたれるのではないでしょうか。
アメリカ人(Joy Sikorski)によるネコのイラスト
目は小さいけれど、目と目の間が広いので
「癒し系」になっているようです
そして、最後に、口元はたいてい微笑んでいるか笑っているようなかっこうになっています。この笑顔の口元で重要なのは、唇の両端の上がり具合が左右対称である、という点です。左右対称であれば、すなおに笑っている、と解釈されますが、これが左右非対称になっていると、「ウソをついている」「人をバカにしている」といったネガティブなメッセージが伝わる可能性があります。
2000年NEW!わかふじ国体当時のふじっぴー
みうらじゅん『前著』より
最近のふじっぴー
口角は左右対称

 たとえば、静岡県のゆるキャラのふじっぴーは、当初、左の口角の方がつり上がっていました。これは、やはり、日本一の山である、ということを自慢しているように受けとられてもしかたがないような「笑顔」なのです。

 その後、口元が左右対称にあがったふじっぴーも現れ、ふじっぴーに他意はなかったことが証明されました。





 以上、要約すると、ゆるキャラのデザイン上の特徴は、

  1. 四頭身〜二頭身である
  2. 目は大きい、かつ/または、目と目の間が幅広い
  3. 口元は左右対称形の笑顔である
といったところでしょうか。




2013年6月28日金曜日

たかが挿管、されど挿管

 挿管困難は、麻酔科医が遭遇するトラブルの中でも、できるだけ避けたい上位三位には確実に入っているでしょう。

 ASA(アメリカ麻酔科学会)の基準では、10分以内に挿管できないものを「挿管困難(difficult airway)」と定義しています。今日は、挿管までに40分近く要した症例を経験しました。Mac 3の喉頭鏡では、ようやく喉頭蓋が確認できるのみ。マッコイ喉頭鏡を使っても披裂軟骨が少し見えるだけ。エアウェイスコープを挿入しても、声門を確認する所まではブレードを進められず、エアウェイスコープとブジーを使って、挿管できたかと思いきや、食道挿管になってしまいました。
エアウェイスコープがあると、
最初からファイバーを入れるより
オリエンテーションがつけやすい

 最終的に、ファイバー挿管を行うことにしましたが、エアウェイスコープガイド下に喉頭蓋の下のすき間へファイバーを進めて、気管にファイバーが届いたことを確認してから気管内チューブを進めて、ようやく挿管を終えました。専攻医2人と専門医3人がかりでの挿管でした。

 挿管困難の頻度は、文献によってまちまちで、1%〜4%という開きがあります。少なく見積もっても二週間に一度は、当院の手術室で遭遇する可能性があるということになります。
 でも、最近では、エアウェイスコープやラリンジアルマスクが普及してきたために、従来の挿管困難症例が問題なく気道管理されている例が増えてきていることでしょう。ぼくも、以前に二度手術を受けた患者さんが、一度目はラリンジアルマスクで難なく麻酔ができていたのに、二度目が挿管困難であったという患者さんがおられました。二度目は救急救命士の気管挿管の同意を得ていたために、挿管しようとしたところ、挿管困難が判明した症例でした。
白ひげは挿管困難だろうか?
アゴは長いが首は短そう…


 挿管困難だった患者さんには、術後回診のときに、「あなたは挿管困難でした。気管に管を入れにくいので、次に全身麻酔で手術を受けるときは、必ず麻酔科医のいる病院で受け、挿管がむずかしいと言われたことを、術前に麻酔科医に告げて下さいね」と伝えています。

H先生、
ありがとうございました。
今日は、毎週金曜日に応援に来て下さっていたH先生が最後の出勤日だったので、菓子職人のケーキでねぎらいました。四月からの新手術室立ち上げの中、軌道に乗るまでご協力いただいてありがとうございました。7月からは、京都市内の別の病院に常勤医として赴任される予定です。



 アマテラスNさんも今日が学外実習最後の日。みんなから「国試がんばってね」とか「市立病院で一緒に仕事ができますように」と言われて帰って行かれました。
N先生の最終日はM先生とともに

2013年6月27日木曜日

Herzlich Willkommen, Dr. Pühringer !

 雨上がりで、朝から快晴になりましたが、湿度は高く、蒸し暑い一日となりました。

 今日は、午後からドイツの麻酔科医ピューリンガー先生が、京都市立病院の手術室を見学に来られました。180cmを超える巨漢で赤ら顔だったため、後からナースに聞くと、普通に会話していても、まるで、われわれが怒られているかのように見えたらしいです。
 ピューリンガー先生は、デスフルランを安全に使用するために、これまで臨床において経験されたことをもとに、「黄金の24ルール」というのを提唱されています。つまり、デスフルランを使用するときには、[キャリアガスの総流量×デスフルランの気化器の目盛り]が24以下であれば、頻脈や高血圧などの有害事象を起こさない、という経験則です。

O先生の麻酔導入を見守るピューリンガー先生(左)
ちょうど、導入中の手術の見学に入られて、M先生と研修医のO先生に、デスフルラン麻酔の実際をデモンストレーションして下さいました。このとき、強調されていたのは、上の24ルールを守りつつ、速やかに呼気ガス中のデスフルラン濃度を4.5%〜5%にもっていくことでした。ピューリンガー先生は、BISモニターに頼らずとも、呼気ガス中のデスフルラン濃度が4.5%〜5%程度であれば、術中覚醒の心配は全くいらないと言っておられました。
 ただし、彼は、どんな手術においてもデスフルランを単独で使用することはなく、必ず、フェンタニルやレミフェンタニルなどのオピオイドを併用するそうです。つまり、デスフルランは、鎮静・意識をとるだけの効果しかない、とのことでした。

Das gefällt mir sehr gut !


 手術室でのインストラクションの後、S先生が、お薄と茶菓子で、ピューリンガー先生をもてなして下さいました。
 S先生は、今日はわざわざ茶の湯の道具と祗園・甘泉堂の水ようかんを持参して下さいました。
 S先生、ありがとうございました。






 お茶を点てて下さったのは、現在麻酔科ローテーション中のO先生。彼女も茶道をたしなんでおられました。茶を点てている姿が珍しかったのか、その姿をピューリンガー先生はカメラにおさめておられました。


 夜は、グランヴィアホテル京都でピューリンガー先生の講演会があって、京都市立病院麻酔科からも8名が参加しました。

2013年6月26日水曜日

器械のメンテは専門家に

 6月の後半になって、梅雨らしい天気が続いています。今日も朝から雨でした。
A先生「雨やのにうれしそうやなぁ」
ポケモン「ムニキュ〜」
A先生「あ、そう言うたら、あんた水タイプやったなぁ」
ポケモン「ムフゥ〜ン」


 手術室では、最近、術中血液回収装置やMEPやSSEPなどの神経刺激装置のほか、内視鏡手術関係のカメラモニターが増えてきて、いわゆる器械のメインテナンスが重要課題となりつつあります。こうした器械は、セッティングもさることながら、日ごろの点検いかんで、寿命が短くも長くもなるようです。
手術室内で作業をする臨床工学技士のIさん
頼りにしてまっせ

 こうした器械の保守管理を、臨床工学技士[かつてはME ( Medical Engineer)と呼ばれていましたが、最近はCE ( Clinical Engineer )と呼ばれることが多くなりました]さんが行って下さると、大いに助かります。人材に余裕があれば、手術室にも複数の臨床工学技士さんを配置できるのですが、京都市立病院には、まだまだそこまでの余裕がありません。
 それでもこの6月から、かつての回復室の一角に臨床工学技士さん用のスペースを設けて、手術室専任の臨床工学技士さんに「常駐」してもらう試みを始めました。
 秋には、手術支援ロボットのダヴィンチも導入される予定なので、手術室における臨床工学技士さんの需要はますます増えてくるものと思われます。
究極の手術支援ロボット見参!?

2013年6月25日火曜日

風立ちぬ 大國つる庵 アマテラス

 今日は、お土産の話から始めます…

 ナースのTさんは、島根県の看護短大を卒業されました。先週末は、その短大時代の同窓会が島根で開かれ、久しぶりに級友とおしゃべりを楽しまれました。
 麻酔科へのお土産には、「出雲ノ國 大國起」を持ってきて下さいました。
 ありがとうございました。

 このお菓子の箱の包装紙には、打ち出の小槌と米俵、それに「大國さま」が描かれています。でも、この大國さま、なんだか大黒天のようにも見えますね。
 七福神の大黒天は、厳密にはもともとインドの神さまです。出雲大社にまつられているのは、大国主命(オオクニヌシノミコト)なのです。でも、日本の神さまたちは寛大なので、大國と大黒、発音が似ていたために、いつの間にか一緒にされてしまったみたいです。
この大國さま、大黒さまに似ていますが、
どことなくつる庵のおじさんにも似ているような…

鏡の前で柏手を打つTさん?


 出雲大社は、縁結びの神さまとしても知られています。Tさんも良縁に恵まれるように、とお参りされたようです。

 ところで、今日は本館の空調設備の風量測定が昼前にありました。三人がかりで、大きな手製のフードと近代的な測定器を麻酔科医員室にもち込んで、風量測定をしていました。

 と、ちょうどそのとき、お昼にF先生が注文していた出前が届きました。
 例のだしの味がするつる庵のカツカレーライスでした。持ってきたのはいつものおじさん。
 顔を見て、「お、これは大國さまだ」と思いました。

「はい、ちょっとごめんよ」と、風量測定作業員の
傍らをすり抜ける大國さま
奇遇な出逢いに不思議な縁を感じた昼下がりでした。

 日本の神々と言えば、天照大神(アマテラスオオミカミ)がいました。今日は、はるばる香川から天照大神も来られました。

 Nさんは、香川大学医学部の6回生。学外実習で京都市立病院麻酔科にみえました。
 今週金曜日まで滞在されます。どうぞよろしく。
天照らす笑顔の素敵なNさん
いつになく、人形たちも嬉しそうですね。
今日は、さっそく、2年目研修医のK先生について、オペ室へ。

 曰く「以前に病院見学に来たときは、本館の手術室しか見ていませんでした。今日は、新館の手術室を見て、広さに感激しました」と。

2013年6月24日月曜日

研修は1冊のノートにまとめなさい

 富士山がユネスコの世界文化遺産に登録されました。
 江戸時代、葛飾北斎が冨嶽三十六景にさまざまな富士山の姿を残しましたが、こうした絵や山岳信仰への影響を総合して、「文化遺産」となったようです。以前に、空き缶などの環境汚染で自然遺産から漏れていただけに、ちょっと複雑な思いを含んだ喜びです。
 そんな人間の思惑を超えて、富士山はやはり美しくそびえています。カバー写真は、去年の秋に、郡山での学会に出席した帰りに新幹線の車窓から眺めた富士山です。

 北斎の冨嶽三十六景からの絵を少しながめてみましょう。















O先生のノートより


 さて、研修医の頃というのは、見るもの聞くもの珍しい時期ではないでしょうか?上級医から聞いたことをノートに書き留めて、時間が経ってから見返すと、何でこんなつまらないことを書き留めたのだろうと思うこともあるかもしれません。でも、大事なことも些細なことも最初は区別ができなくて当然でしょう。
 
 研修医のO先生のノートを見ていて、自分自身が昔に書いていたノートを思い出しました。





麻酔導入中のO先生




 奥野宣之氏のノート術はユニークです。とにかく何でもかんでもA6サイズのノートに時系列で記録していくというものです。
 それこそ、思いついた企画案や講演会の内容から、昼食で食べたレストランのレシートや新聞の切り抜きまで、すべてをノートに収めるのだそうです。
 時系列は、年号月日を8桁の数字列(たとえば、今日だったら20130624といった具合に)で表します。これをパソコンで検索タグをつけて整理しておけば、関連した項目を見つけられるのだそうです。
奥野宣之『情報は1冊のノートにまとめない』
(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)



 初期研修期間は、あちらの科、こちらの科とローテーションするので、たぶんこのように時系列でノートをとるのが、適しているかもしれません。人の記憶は、「あれは、確か麻酔科を回っていた頃に読んだ本だ」といったように時間の経過で思い出せることが多いのではないでしょうか?
 








 今日のお土産
専攻医のK先生が、東京ミルクチーズ工場のクッキーを差し入れて下さいました。
チーズの塩味がきいたクッキーでした。ありがとうございました。

2013年6月23日日曜日

パズル型チームワークvs積み木型チームワーク

 おとといの金曜日に、午後から外科の臨時が三件入ったとき、ちょっと重症感のあった症例を担当していたM先生の所に、夕方、定時を過ぎていたにもかかわらず、一年目の研修医の先生方が三人とも集まっていました。誰に強制されたわけでもなく、進んで手伝いないし見学をされていたようです。これを見て、理想的なチームワークという観点から、現在の麻酔科の研修体制が好もしいものになってきたようだなと感じました。

 近年は、医療の世界においてもチームワーク(チーム医療)が強調されています。そもそも、私たちに要求されているチームワークとはどういうものなのでしょうか?


 平尾誠二さんは、日本で言われているチームワークとは、「協調性や、画一性、同一性といったものを『チームワークのよさ』と言いかえていただけだったのではないか」と疑問を投げかけています。平尾誠二『人は誰もがリーダーである』[PHP新書]2006年

 日本人のいうチームワークとは「パズル」のようなもので、一定のフレームの中にひとつひとつのパーツ=個人をすき間なく当てはめていく。適合しないパーツは削って型に合わせるか、捨ててしまう。そこではみんなが同じ形になることを強制され、突出することは許されない。言うなれば、「パズル型チームワーク」なのではないか、と分析しています。

 しかし、組織やチームのおもしろさというのは、個人ではできないことでも、全員の力を集約させれば実現できることにあるはずです。そのために要求されるチームワークとは、先に述べたような「パズル型チームワーク」ではなくて、「積み木型チームワーク」ではないだろうか、と平尾さんは問題提議しています。
できあがった絵の完成度は高くても
パズルのピースは融通がきかない

 「積み木型チームワーク」とは、「いろいろなパーツを矯める(形の悪いものを直して、かっこうをよくする)ことなく、それぞれの形を残しながら、多少の出っ張りは気にせずに積み上げていくという考え方」です。

 問題は、個性を尊重して積み木を積み上げたときにできてくる、すき間の埋め方です。このすき間を埋めなければまとまりを欠き、チーム全体として力を出し切れなくなってしまいます。
 そのすき間を埋めるものは、「アクティブコミットメント」(自発的連携)だと平尾さんは強調しています。つまり、自ら進んでチームにコミットしようという意欲、チームとしてまとまろうとする気持ちが大事なのです。周りから強制されて、すき間を埋めるのではなく、個々の内側からにじみ出る内発的動機にもとづいてすき間を埋めなければ、真のチームワークとは言えないのです。
 
すき間を誰が埋めるのか
それが問題だ

 ある意味、周りからあれしろこれしろと強制されて行動する方が楽かも知れません。自発的に行動するためには、自分の頭で考え、ときに悩まねばなりませんから。
 でも、いつも人から指図されなければ動けない医者は、プロフェッショナルからはほど遠いでしょうね。

2013年6月22日土曜日

私たちの目はいかに色に頼っているか、について

 いきなり問題です。次の写真は何でしょう?


 これは、今朝見たうろこ雲の写真です。モノクロ写真にすると、煙か森の航空写真かはっきりしませんね。カラーにすると、バックの青い空が見えて、「あ、雲かな」と分かります。

 麻酔器には通常、酸素、空気、亜酸化窒素(笑気)の流量計があって、正面には、流量を調節するノブがついています。たとえば、ドレーゲル社の麻酔器Apolloでは、この三つのノブは横に並んでいます。これをモノクロ写真で撮ってみると、こんな感じです。



 色はなく、灰色の階調の差だけで、「色」が判別されるだけです。それぞれ何色だったか思い出せるでしょうか?
 カラー写真にしてみると、酸素は緑、空気は黄色、笑気は青色と一目瞭然となります。



 さて、さきほどのモノクロ写真で、ノブの違いを灰色の階調だけでなく、もうひとつ区別できるような工夫がしてあったのに気づかれたでしょうか?実は、ノブの側面の溝の刻み方が、酸素だけ他のふたつと区別されています。拡大するとこんな風になっています。

笑気のノブ(左)と空気のノブ(右)の
側面は同じ溝がきざまれています

酸素のノブ(右)だけは、少し深めの
異なる溝がきざまれています




 これは、暗闇でも直接目で確認しなくても、指先の感覚だけで、酸素のノブを区別できるように、という工夫なのです。

 眼の網膜には、色を認識する錐体細胞と、ものの形や動きに反応する桿体細胞があります。全色盲は、色を認識する錐体細胞が先天的に欠落している人びとです。全色盲は劣性遺伝し、通常、発生頻度は3万人に一人とされています。
 ところが、ミクロネシアにあるピンゲラップ島という島では、島の人口の三分の一が全色盲の遺伝子を持っていて、700人余りの島民のうち、57人が全色盲なのだそうです。実に12人に1人という確率です。
 この島に全色盲が多い訳は、約200年以上前に島を襲った台風に由来するそうです。当時千人程度いた島民のほとんどが、台風による波にさらわれ、わずかに20人余りが生き残りました。そのときに生き残った島民の中に、全色盲の遺伝子をもったオコノマンという男性がいました。それから何世代か経て人口を増やしましたが、近親結婚が増えたために、現在のように全色盲の島民が増えたのだそうです。

 全色盲の人は、錐体細胞がないので、色を見分けることができません。しかし、その分桿体細胞が活躍して、物の形、質感、輪郭、境界線、釣り合い、奥行き、そしてほんのわずかな動きに対して鋭敏になるそうです。
(以上、オリヴァー・サックス『色のない島へ 脳神経科医のミクロネシア探訪記』[早川書房]を参考にしました)





 さきほどの流量計のノブの側面の溝の違いなどは、全色盲の人だったら、ひと目で気づいていたことでしょうね。日ごろ、色に頼っているわれわれは、注意をうながされるまで、溝の違いにはなかなか気づかないようです。

2013年6月21日金曜日

喜びと哀しみ、そして憂鬱

 雨の金曜日。
 今日は夏至でしたが、一年で一番遅い時間に見られるはずの日没にはお目にかかれませんでした。

 今日は、泌尿器科のS先生が病院に来られる最後の日。S先生は、来週火曜日にアメリカに向けて旅立たれます。2年間の予定で、ノースカロライナ大学に留学されるからです。留学を前にして、手術室に挨拶に来られたS先生は喜びでいっぱいのご様子でした。
研究成果をあげて、日本へハッピーターンして下さいね!
明るくほがらかな先生で、ナースにも人気があっただけに、オペ室ナースは哀しんでいます。麻酔科からも何かお餞別をと思い、手元にあったハッピーターンをお渡しすると、怒りもせずに喜んで受けとっていただけました。
 ほんまにええせんせやわぁ。(という関西弁が似合う先生でした)

 一方、第1手術室でAplloを駆使して、麻酔を終えたT先生は憂鬱でした。というのも、昼間に休憩室の自動販売機で、リアルゴールドを買ったときに、500円玉を入れたのですが、おつりが出てこなかったからです。どうやら釣り銭切れだったようです。
 リアルゴールドを飲んでも、いつものように活力が湧いてきませんでした。
リアルゴールド500円は高すぎるわ…
しかし、副師長さんが業者に連絡をとって下さり、釣り銭は無事に戻ってきました。
 
 雨の金曜日。喜びと哀しみ、そして憂鬱が交錯した一日でした。

今日のお土産

 M先生は、大きな紙袋から、今日はいろんなお菓子を出してきて下さいました。
 麻酔科医員室Aには、お菓子入れの缶が置いてあるのですが、ときどき空っぽのことがあります。ある日、M先生が缶を開けたときに、何も入っていなくて残念がったときに、O先生がわざわざ二階のコンビニでお菓子を買ってきて下さったことがありました。
 で、M先生は、O先生が来られている金曜日にたくさんのお菓子を持ってきて下さったのでした。
M先生の紙袋からは
ドラえもんのポケットのようにいろんなお菓子が
出てきました

でも、今日は昼から3件も外科の臨時手術が入ったこともあって、こんなにたくさんあったお菓子が、夕方にはほとんどなくなっていました。
 M先生、いつもありがとうございます。