2013年5月28日火曜日

狂言に登場した麻酔科医

 5月23日に亡くなった大蔵流狂言師の茂山千作さんの葬儀が、京都市左京区の金戒光明寺で営まれたとのニュースを、今朝の新聞で知りました。
『王様と恐竜』で「太陽の国の王」
トットラーを演ずる故・茂山千作さん

 京都の茂山家は、伝統的な狂言を現代に活かすべく、これまでにさまざまな挑戦をしてきました。スーパー狂言というのもそのひとつ。
 歌舞伎の市川猿之助さんのためにスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』の脚本を書いた梅原猛さんが、千作さんの弟の故・千之丞さんに頼まれて書いた『ムツゴロウ』(2000年初演)が大当たりをしました。そのとき、この狂言はスーパー狂言と名づけられましたが、それ以降『クローン人間ナマシマ』(2002年初演)、『王様と恐竜』(2003年初演)と続きます。





『ムツゴロウ』
環境破壊を風刺
『クローン人間ナマシマ』
遺伝子操作を風刺













 

 狂言の笑いの本質は、ひと言で言うと「風刺」でしょうか?地位のある大名や僧侶などが笑いの対象とされます。医師が出てくる狂言もひとつ存在しています。『神鳴(かみなり)』がそれです。

 都で仕事をしていた、あまりパッとしない藪医師が、仕事を求めて東へ下ります。その途中、広い野原で神鳴が鳴り出します。急いで里近くへ逃げようとしているところへ、「ヒッカリ ヒッカリ、グヮラリ グヮラリ グヮラリ グヮラ グヮラ ドー」と言いながら神鳴が舞台に登場します。この神鳴さん、調子に乗って雲間を踏み外して地上に落ちてきたのでした。
 落ちたときに腰の骨をしたたかに打ったと言います。ちょうど、落ちたところに医師を見つけたので、「まことの医師ならば、某が腰を療治してくれい」と言います。最初は怖れて治療を断っていた医師は、神鳴におどされてしぶしぶ治療を始めます。医師は針を取りだし、横になった神鳴の腰に槌で針を打っていきます。「グヮッシ」「アア痛」「グヮッシ」「アア痛」というやりとりをくり返すうち、神鳴の腰の痛みが取れていきます。
 腰痛が軽快して、天上に帰ろうとする神鳴に、医師は「薬礼」をくれと要求します。神鳴は、「きょうは ふと落ちたことじゃによって、何も持ち合わせがない」と言って、太鼓やばちを医師に与えようとしますが、医師はそんなものはいらないと断ります。結局、交渉の結果、神鳴に雨風を自由にする力があることを聞いて、向こう八百年間日照りや水害にあわぬようにしようという約束を神鳴からとりつけます。そして、神鳴は天上へと帰って行きます。

 この医師の針治療は、今で言えば硬膜外ブロックか神経ブロックのようなもので、麻酔科のペインクリニックのような治療ですね。
『王様と恐竜』
戦争を風刺

 リサ・サンダースは『患者はだれでも物語る』(ゆるみ出版)の中で、「医者の主たる仕事は、痛みをとり、苦しみを和らげることである」と述べています。神鳴の腰の痛みをとった藪医師は、医師としての役目を立派に果たしたと言えそうですね。