2013年2月28日木曜日

なぜ人はサンショウウオをキリンと間違うのか?

 2月最終日。暖かくなりました。
五条通りから眺めた夕焼け
夕焼けも穏やかで、病院の近所にあるローム本社前の通りの並木にも芽吹く寸前の気配が感じられました。
ローム本社前の並木道



































謎の二色ボールペン(表)
今日は、ナースカウンターのペン立てに、誰かが置き忘れた二色ボールペンを見つけました。





 一見したところキリンのように見えましたが、よく見ると、下半身がニョロッとしています。そういえば、ボールペンを出すボタンは角ではなく手のように見えます。









謎の二色ボールペン(裏)



 裏返してみると…
 やはり、下半身にニョロッとしたものがしたものがありました。

 周りにいたナースに「これ何に見える?」と聞くと、やはり何人か「キリン」と答えていました。

 








 


 この二色ボールペン、先の方に名まえが書いてありました。
 これは「mimiペン オオサンショウウオ」なのだそうです。
mimiペン オオサンショウウオ


現手術室側から見た隔壁





 新棟の手術室と現手術室は、すでにつながっているのですが、空調の関係で、まだこの隔壁を開放することができません。



新棟手術室側から見た隔壁







 どちらが表でどちらが裏とは言えませんが、あと10日もすれば、この隔壁は開放されて、人と物が行き来するのですね。

2013年2月27日水曜日

アポロはタイロのお兄さん

 新しい手術室に、新しい器材が次第に搬入されてきました。

左からTOFウォッチ、BISモニター、ベアハッガー
BISモニターは新しく4台、TOFウォッチSXも4台入ります。















デスとセボの気化器を付けた麻酔器アポロ
麻酔器は、Tiroが3台、そしてApolloが1台入ります。このApolloには、気化器が2台取り付けられるので、デスフルランとセボフルランが仲良く並んでいます。







海外で使用されている麻酔器ゼウス
日本では、ドレーゲル社の麻酔器としては、このApolloが最上位機種になっています。でも海外では、Zeusという機種が使われているようです。これは、一見すると今までの麻酔器とはまったく違った外観をしています。斬新なデザインですね。
 残念ながら、日本では承認がおりていないため、お目にかかることはありません。














 今日のお土産。
 救急救命士のKさんから鼓月の千寿せんべいを、4月から勤務されるE先生が挨拶に来られて、チポリーナの黄色い帽子と紫の帽子をいただきました。ありがとうございました。
鼓月の千寿せんべい

チポリーナの黄色い帽子と紫の帽子

2013年2月26日火曜日

わたし、デスしか知らないんデス…

 満月を楽しみにしていたら、今日は夕方からあいにくの雨。
  ♪雨降り〜お月さん、雲の上〜♪

わたし、デスしか知らないんデス…
一年目研修医のM先生は、今月は麻酔と救急が半々の研修です。だから、まだ麻酔科での研修は半月程度なのですが、今日話を聞くと、全麻は何例か経験したのに、セボフルランを一度も使ったことがなく、すべてデスフルランで麻酔していたそうです。

 う〜む、ついにそういう世代が現れたか、とエトレン、ハロセンを知る世代は、ジェネレーションギャップを感じざるをえませんでした。
夢のチーズケーキ!





 ところで、先日届いていた、京都府立医大の同窓会誌『青蓮会報』を読んでいたら、おいしそうなチーズケーキとワインの宣伝が目に止まりました。

 学長の吉川敏一先生が音頭を取って、チーズケーキとワインを開発されたようです。ちょっと高めのお値段ですが、売り上げの一部を研究基金として大学に寄付するのだとか。

 そう言えば、京都大学も、総長カレーや、古代エジプトの麦を育てて作ったビールなどを開発していました。公立あるいは国立大学時代には考えられなかった企画ですね。


学長葡萄酒






 わが、京都市立病院も独立法人化したのだから、そろそろこうした企画を考えてもよいのかもしれませんね。

2013年2月25日月曜日

Win-Win座骨神経ブロック法

月齢15.2
今日は月齢15.2なのですが、
満月は明日です(月齢16.2)。
 
 最近、K先生は、仰臥位で座骨神経ブロックを行う方法にトライしています。

 京都市立病院麻酔科では、膝関節全置換術(TKA)を受ける患者さんに対し、術後の創痛を和らげるため、大腿神経ブロック(局所麻酔薬持続注入)と座骨神経ブロック(局麻薬ワンショット)とを併用しています。




仰臥位で患肢をひねり、臀下部より
電気刺激を加えながら座骨神経をさぐる
大腿神経ブロックは、全麻導入後、エコーガイド下にブロックし、カテーテルを挿入します。膝の手術では、大腿神経ブロック単独では、膝下部の痛みが残るため、座骨神経ブロックを併用するのが有効です。しかし、術前に座骨神経ブロックを施すと、総腓骨神経がブロックされるので、術後に術者が、患者に足を背屈してもらって、浅腓骨神経を損傷していないかを確認するのが困難となる場合があります。

 そこで、K先生は、座骨神経ブロックを術後に施すようにしました。このとき、電気刺激装置を用いて、座骨神経領域を穿刺すると、足の背屈運動が観察されます。これで、浅腓骨神経の損傷がないことが確認されるので、術者も安心できます。同時に座骨神経も同定できるので、ブロックの成功率があがります。局麻薬の効果はすぐに現れ、やがて電気刺激による背屈運動はなくなるのを目で見て確認できます。


 
 これならば、術者も納得、麻酔科医も満足、のWin-Win座骨神経ブロックですね。

座骨神経周囲に局麻薬(黒い部分)が注入されたところ

  教科書には、座骨神経ブロックは、側臥位ないしは腹臥位で行うと説明されていますが、仰臥位で患肢を90度に屈曲して、健肢側に股関節をひねって臀部を露出する体位をとると、エコーのプロ—べをやや下から当てて臀下部で座骨神経にアプローチができます。








 このためには、術者の協力がいるので、ふだんから整形外科医とよいコミュニケーションがとれていることも条件のひとつとなるようです。

 局麻薬が注入されて、足の背屈運動が減弱する様子を動画でどうぞ。

2013年2月24日日曜日

犬のレッグウォーマーは蛇の足か?

 朝から重たい雪がちらつく日曜日、公園を散歩している犬がいました。
 見れば、一匹の犬が足に黒いレッグウォーマーをはき、首にネックウォーマーをしていました。

レッグウォーマーをはいてお散歩中の犬くん
犬のレッグウォーマーは初めて見ました。(ネックウォーマーもかな?)
 もう一匹のやや年寄りの犬にはレッグウォーマーはなく、綱も引いてもらっていませんでした。
 童謡には「犬は喜び庭かけ回り…」とありますが、この老犬はあまり喜んでいるような顔つきではありませんでした。





「ぼくもレッグウォーマーがほしいな〜」



 蛇足という言葉があります。
 昔、中国の王さまが「一番早く蛇の絵を描いたものにほうびをあげよう」と言ったのに対して、絵の上手な男が一番に蛇の絵を描き上げました。顔を上げて周りをを見渡すと、他の人たちはまだ蛇の絵を描いておりました。男は、時間に余裕があるところを見せつけようとして、蛇に足まで描き加えました。
 仕上がって王様に見せると、「これは蛇ではない。蛇には足などないぞ」と言われ、一番早く絵を描き上げたのに男はほうびをもらえませんでした。


 ここから、「十分完成しているもののあとにつけ加える余計なもの」を、蛇足と呼ぶようになりました。

 すると、古来犬の足として完成されていたものに、人がレッグウォーマーをはかせるのは、やはり蛇足と言わざるをえないかもしれませんね。

 ふりかえって、麻酔の臨床においては、蛇足はないでしょうか?
ノープロブレム!
たとえば、小児の麻酔の術前検査はどうでしょう?

 小児科の外来診療では、患者(ときには親)の訴えと身体所見でほとんど診断がつきます。しかるに、小児が麻酔を受けるときには、風邪や下痢の症状など何もなく、ASAのPSが1の健康な小児であっても、そけいヘルニアや陰嚢水腫の手術を受ける際には、胸部レントゲン撮影、心電図、凝固系を含んだ血液検査を「術前検査」と称して行っています。
 さらに、小児の状態は、一週間でも変わることがあります。一、二週間前の検査が大丈夫でもその間に体調が変わることは十分ありうることなのです。

 すると、手術の前日あるいは直前の小児科医(あるいは麻酔科医)の診察があれば、それで事足りるような気もするのですが、いかがでしょうか?
 小児の術前検査がすべて蛇足だとは言いませんが、成人病の宝庫のような成人と同様の検査を、元気な子どもにも課すのは過剰なのではないかしら?
ぼくのまちゅいじゃ、イヤでちゅか?
犬のレッグウォーマーを見ながら、そんなことを考えました。

2013年2月23日土曜日

術中X−P撮影はどうなるのだろうか?

 かつては、外科の術中胆道造影の結果や、整形外科の骨折プレート固定の確認などを行うときは、撮影したレントゲンフィルムを3階の手術室から1階の放射線科まで運び、現像したフィルムを再び手術室までもってきてもらっていました。
 このため、放射線科の技師さんは、手術室と放射線科を往復しなければなりませんでした。この動線の長さと、結果が出るまでに要する時間はかなり長かったように思います。

レントゲンフィルムデジタル処理装置
今は、レントゲン撮影をデジタルフィルムで行うことができて、画像処理も手術室の中でできるので、結果を待つまでの時間は、相当短縮されています。
 外科や婦人科では、クリニカルパスで腹部の異物の有無とドレーン等の位置確認のために術後レントゲン撮影が行われます。整形外科のTHAでは、人工関節の仕上がり具合を確認するために、閉創前にレントゲン撮影が行われています。これらの場合、術者は手を下ろして、画像が表示される器械のある、手術室の第二ドアのところまで出向いています。

 もちろん、ここで処理された画像は、放射線科まで転送されて、数分で院内の電子カルテに反映はされるので、待っていれば各手術室の中でも画像をみることはできます。

 来月から新棟に手術室ができると、各手術室からこの画像表示装置までの動線は長くなります。その分、結果をフィードバックする時間も延びてくるわけです。
 いったん短くなった確認時間が再び延びると、心理的には苛立ちがつのってくるかもしれませんね。


術後のレントゲン撮影で異物がないかを確認中
何かよい工夫はないかしら?

2013年2月22日金曜日

挿管集中講座

 東雲と書いて、しののめと読みます。

 東雲とは明け方のことですが、今朝は、東の空の雲の間からゆっくり陽が昇ってきました。












 一年目研修医のM先生は、今日が麻酔科ローテの最終日でした。

麻酔科ローテ最後の麻酔を担当するM先生
M先生の研修期間、ちょうど救急救命士の気管挿管実習と重なり、同意を得られた症例が、たまたまM先生の担当する症例であったりすると、どうしても気管挿管の機会が少なくなってしまいがちになりました。

 現在の京都市立病院卒後初期臨床研修ローテーションメニューでは、一年目は麻酔科1ヶ月半、二年目1ヶ月です。また、気道確保の方法が、喉頭展開による気管挿管以外に、エアウェイスコープを用いたり、ラリンジアルマスクやi-gelのような気管上気道確保器具が登場してきたので、喉頭鏡を用いて気管挿管する機会はますます減ってきています。

 たまたま、今日は臨時手術が一件入ったので、M先生の最終日は、歯科の経鼻挿管、耳鼻科のラリンゴマイクロのレーザーフレックスチューブの挿管、小児の扁摘の挿管、緊急手術の挿管と多彩な気管挿管を四例経験することができました。

 夕方の勉強会(今は、過去の麻酔指導医認定試験問題を使っています)終了後、菓子職人で買ってきた、ケーキとマカロンでお疲れさま会をしました。

 M先生、麻酔科研修お疲れさまでした。

チョコチップとナッツの入ったクグロフと
10種類のマカロン
これが話題の菓子職人の店舗


 お茶菓子を買い出しに出かけた帰り、旧看護短大の庭にトトロ?を見つけました。

トトロ拡大図
 よくよく見ると、平成16年度の短大卒業生が記念植樹したハナミズキの枝に、かわいらしいマスコット人形がぶら下がっていたのでした。
 その横にある梅の木は、深紅のつぼみをつけていて、春が近づいているのを教えてくれていました。







2013年2月21日木曜日

麻酔回路を正しく描けるかしら?

 一昨日、シータ回路を紹介しましたが、かつて、近畿麻酔科医会主催の基礎麻酔学セミナーで紹介された、麻酔指導医口頭試験での「閉鎖循環式麻酔回路を描きなさい」という質問の回答例を思い出しました。

毎日使っている麻酔回路なのに、いざ絵に描こうとすると「う〜む」と腕組みしてしまいます。

 写実的に描くのではなく、麻酔回路を構成する部品とその配置に注意をはらって、模式的に描くのが理解しやすいのでしょうが、ついついふだん使っている麻酔器の姿を思い浮かべて描いてしまいそうです。




 この「閉鎖循環式麻酔回路の記述問題」では、過半数の受験者が正解できなかったそうです。いろんな会社のいろんな麻酔器があり、外観はそれぞれ違っています。でも、弁の位置、バッグの位置、キャニスターの位置等はどの麻酔器も共通であるはずです。

 研修医の先生方に絵を描いて麻酔回路の説明をするときの模式図をひとつマスターしておくといいのかもしれませんね。


 今日の差し入れ、郵便局に用事で出かけたK先生が帰りにミーマンでケーキを買ってきて下さいました。

 ありがとうございました。

京都市立病院新館全面広告の日

 今日(2月20日)は、脳外科の手術が日付け変更線を超えてしまったので、やむを得ず、21日のアップとなります。

これがチョコレートの箱なのだ
研修医のM先生が、珍しいBVLGARIのチョコレート菓子を持ってきて下さいました。(どうやらバレンタインデーのチョコレートらしいのですが、贈った方に配慮してか多くは語られません)
 アーモンドやピーカンナッツをココアやシナモンシュガーでコーティングしたお菓子でした。興味半分でBVLGARIのチョコレートのお値段を調べてみると、この手のものが3600円くらい。チョコレート・ジェムズという種類のものは、5ヶ入りが5000円、つまり1ヶ1000円でした。
 畏れ多くいただきました。


見た目はきな粉
実はシナモン味
アーモンドをココアで
コーティング



京都市立病院新館竣工
全面広告(京都新聞2月20日付朝刊)
さて、今日(2月20日)は、京都新聞に全面広告で京都市立病院新館竣工の広告が載っていました。朝露(?)をのせた双葉を写真として載せたのは、どういうメッセージなのでしょうか?

2013年2月19日火曜日

そう言えば、蛇の話題がまだでした

 今年は巳年。ヘビ年ですね。そう言えば、まだヘビの話をしていませんでした。

 ヘビと言えば、麻酔の業界では、蛇管を思い浮かべます。
シータ回路

向かって左が吸気側、右が呼気側
吸気は青い隔壁の左を、呼気は右を通ります

 先日、シータ回路という新しい蛇管を業者が紹介してくれました。一見、F回路のようにも見えるのですが、管をのぞいてみると、蛇管を半円で区切るように青い隔壁が見えます。
 この姿が、ギリシャ語のシータ(Θ)に似ていることから、シータ回路という名まえがついたようです。












断面を見ると、ギリシャ語のΘのように見える


 蛇管は、英語ではhose。Gas supply hoseとも言いますが、ヘビとはまったく関係がありません。

 日本語の蛇管というのは、おそらく管が長いことから蛇を連想して命名されたのでしょうね。

 そう言えば、ルナールの『博物誌』の中で、蛇は次のように言われていましたね。

 「蛇、長すぎる」


2013年2月18日月曜日

アメリカでまず要るものは……

 今日は、二十四節気の雨水(うすい)。これは、立春から数えて15日目頃で、今年は2月18日が雨水となります。空から降るものが雪から雨に変わり、氷が溶けて水になる、という意味なのだそうです。草木が芽生え、昔から農耕の準備を始める目安とされてきました。

 その暦通り、今日は朝からしとしとと降り止まぬ雨となりました。

TOTO製携帯ウォシュレット

 今日は、病院に段ボール箱に入った荷物がK先生宛に届きました。

 中身は…
 何と、携帯ウォシュレットでした。







携帯ウォシュレット実演中


 アメリカでは、ウォシュレット付トイレットがまだまだ普及しておらず、日本でウォシュレットに慣れた身には、ウォシュレットレス社会には適応しにくいようです。
 それにしても、ウォシュレットが携帯で販売されているとは知りませんでした。













T falの鍋を検分するK先生

 K先生は、少しまえには、T falの鍋のセットを取り寄せていました。これは、彼によれば、「とりあえず、肉が焼けたら食い物は何とかなる」ということで必需品なのだとか。さらに、電子レンジでチンしてご飯が炊ける便利グッズも手に入れているようです。

 何しろ単身留学なので、生きていくための最低条件を満たすグッズについては、彼なりに慎重に考えているようです。

2013年2月17日日曜日

論理だけでは世界はわからない

 寒い日曜日、アレクサンドル・ソクーロフ監督の映画『ファウスト』(2011年を観ました。
第68回ヴェネチア国際映画祭
グランプリ(金獅子賞)受賞

 この映画では悪魔メフィストフェレスは登場しません。非情な高利貸しマウリツィウスがファウストにつきまとい、魂と引き替えにマルガレーテとの一夜の逢瀬をファウストに与えるという契約を結ばせます。マウリツィウスは、人か悪魔かわからない曖昧なキャラクターです。

 ファウスト博士は、哲学、法学、神学そして医学を修めて、人生の意味をつきとめようともがいています。
 映画は、人体の解剖場面から始まります。臓器を素手に取りながら、「魂はどこにあるのだ」とファウスト博士は空しくつぶやきます。
 やがて、高利貸しのマウリツィウスに導かれてマルガレーテに出会ったファウストは、彼女に惹かれていきます。しかし、酒場の混乱の中で、ファウストはマウリツィウスによって、マルガレーテの兄を刺し殺すように仕向けられます。
 しだいにファウストに惹かれていくマルガレーテは、ファウストが兄を殺した犯人であることを知って、悩み、ついに泉に身を投げようとします。その寸前、マルガレーテを抱きしめたファウストは、いっしょに泉の底へと沈んで行きます。
 映画の終章で、ファウストはマウリツィウスとともにゴツゴツとした岩山を上へ上へと登っていきます。途中で死者たちに出会い、岩穴の温泉から間歇的に吹き上がる蒸気を眺め、自然の驚異に打たれながらも、彼はその原理を「科学的に」論理で解説しようとします。
その後、岩だらけの山を歩いている途中、天上から「どこへ向かうの?」という女性の声が聞こえてきます。それに対して、ファウストはしばらく考えてから「もっと向こうだ!ずっとずっと向こうへだ!」と答えます。
 彼の目の前に広がっているのは、延々氷の山々だけでした。映画はそこで終わります。

 この終章を見て、「ファウストは論理で世界をわかろうとした人なのだな」と思いました。彼は、魂が何であるのか、どこにあるのかを知りたがっていました。自然界の現象も論理で説明をつけようとしていました。彼は、最後の最後まで、もっと先へ進むこと(真理を追究すること)だけを考えていました。大学院まで進んで、科学を学んだ男性にありがちなキャラクターですね、これは。
 だから、彼は今まさに目の前にあるマルガレーテの愛を受けとめることができなかったのではないでしょうか。それは、感情の領域の問題だったからです。感情は時として論理では説明できない心の働きなので、彼には受け入れることができなかったのかもしれません。

医者の間で言われる言葉に鬼手仏心というのがあります。
 これは、「外科医はメスをふるって患者の体に傷をつけるが、その心には患者を救いたいという、温かい純粋な心がある」ということを言い表した言葉です。鬼手は論理に基づいています。曖昧な知識や原理による行為は、かえって患者を傷つけてしまいます。一方の仏心は感情です。これは目には明らかではありませんが、言葉や態度に表れます。

 ファウストは、鬼手だけで世界をわかろうとしていたのではないでしょうか?マルガレーテを救わねばならないと願いつつも、ついに仏心から出る言葉も行為も見られませんでした。
 鬼手を手に入れるには、ファウストが学問に費やしたように、長い時間とたゆまぬ努力を必要とします。しかし、仏心は、心を決めればその場で即成就されるものです。
 自分を愛してくれている人を受け入れるかどうか、自分の持ち物を盗んだ人に対する怒りを鎮めるかどうか、最愛の肉親を亡くした人に共感するかどうか…これらは、感情の領域の問題なので、いたずらに時間をかけても答えは出そうにありませんね。

 医学は人間を相手にする学問なので、論理と同時に感情の動きを理解することも大事なのではないだろうか、と映画『ファウスト』を見て考えました。

注)今回の写真は、映画『ファウスト』とは何の関係もありません。著作権の都合で映画のパンフレットの写真を使えなかったので、お許し下さい。



 

2013年2月16日土曜日

われらが麻酔科は緩和にいかに貢献できるか?

 いよいよ、新病棟の始動に向けて準備が始まりました。
 来る2月24日には竣工式。

3月2日には、内覧会を兼ねた京都市立病院地域医療フォーラムが開催されます。


















 今日は、午後からバプテスト病院主催のバプテスト緩和ケア勉強会に参加しました。
 京都市立病院も、新棟には緩和病棟ができます。麻酔科は、緩和ケアに対しては、主として疼痛緩和のためのブロックや硬膜外鎮痛、薬物療法などの領域で関与していけるので、今後は緩和ケアに対する知識と経験を積んでいく必要が生じてくると思われます。

バプテスト緩和ケア勉強会
 バプテスト緩和ケア勉強会は、京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールで行われました。
 ケアーズ白十字訪問看護ステーション代表取締役の秋山正子先生と聖隷三方原病院緩和支持治療科部長の森田達也先生の講演がありました。


 緩和ケアへの麻酔科の関わりは、「疼痛の軽減」という領域になります。
 ところで、この「疼痛」というのは、患者さんの症状のひとつに過ぎません。わたしたち麻酔科医は、ともすれば、「疼痛」という症状がなければそれでよし、といった考え方に慣れてしまっているのではないでしょうか。しかし、今日の森田先生の講演の中で、とくに緩和ケア領域では「症状をみて人を見ず」という態度はいけないとの指摘がありました。緩和ケアにおいては、その人が大事にしようと思っていることを理解してあげることが大事なのだそうです。

 現在、緩和ケア領域では、緩和病棟などに入院してケアを受けるという方向から、在宅で緩和ケアを行う、という方向に流れが変わってきているようです。そのためには、地域連携が必要となり、医師・看護師だけでなく、ケアマネジャー、介護職や病院の地域連携室等、他職種とのコミュニケーションをとることが重要課題となってくるようです。

 しかし、日本には「察しあう、わかり合う」という文化が存在しているので、こうしたコミュニケーションの取り方は日本人にとってはいささかむずかしいようです。これが、職種をへだてた(つまり微妙に価値観の違った人同士の)コミュニケーションを困難にしいている原因のようです。

「『心からわかりあえなければコミュニケーションではない』という言葉は、耳に心地よいけれど、そこには、心からわかりあう可能性のない人びとをあらかじめ排除するシマ国・ムラ社会の論理がはたらいていないだろうか。」と平田オリザさんは指摘しています。だから、人間は分かり合えないけれど、わかりあえない人間同士が、どうにかして共有できる部分を見つけて、それを広げていくことが必要なのかもしれませんね。(平田オリザ『わかりあえないことから』[講談社現代新書]

丸太町橋から北山を望む
鴨川に夕焼け雲が映っていました
勉強会の帰りは、時おり雪のちらつく中、鴨川べりを歩いてみました。雪をいただいた北山や比叡山が、夕日に映えてきれいでした。
鴨川を遊泳するカルガモ一家
三条大橋ごしに比叡山を望む