2013年5月18日土曜日

まず人が習慣をつくり、次に習慣が人をつくる

道元『八大人覚』シリーズ 第四回

 『八大人覚』の第四番目は、「勤精進(ごんしょうじん)」です。

 「さまざまなよいものごとを休みなく実践することを『精進』という。精励努力して、漫然とやらないこと。ただ前進し、うしろへ下がらないこと」(ネルケ無方訳)

 「勤精進」の段の後半には、こんなたとえが書かれています。

岡山大学にある南極の蜂の巣岩
南極大陸で、同じ方向から吹く砂混じりの風に
何億年もさらされて、こうなったそうです
「たとえば、少量の水であっても常に流れていれば、石に大きな穴を開けるようなものである。もし修行の者が、修行を途中で何度も怠けてしまうことは、たとえば火を起こそうとしているとき、いまだ熱くならないうちに止めてしまったため、火を得ることができないようなものである」(同上)

 つまり、「精進」には、一所懸命にやるというよりも、続けてやるといったイメージがありますね。しかしながら、凡人には、この続けるということが意外とむずかしいものなのです。

 司法試験頭の受験指導を展開している「カリスマ塾長」の伊藤真氏の『続ける力 仕事・勉強で成功する王道』(幻冬舎新書)によれば、「続けるためには強い動機があるだけでは不十分。やるべきことをできるだけ少なくして、退屈さのハードルを下げる必要がある」のだそうです。
 レオ・バボータの『減らす技術 もっと少なく、もっと小さく、もっと価値あることを』(ディスカバー・トゥエンティワン)の中でも、物事を続けるためには、あれもこれもと目標を設定するのではなく、「制限値」を設けて「一度に一場面」に集中し、それがルーチン化、すなわち制限に違和感を覚えなくなるまで続けるのがよいとされています。

青少年科学センターに展示されているミョウバンの結晶
正八面体の結晶構造を、ゆっくりくり返すことで
大きな結晶が成長します
人の行動を習慣化してもこのように目には見えませんが
人格形成にはなっていると思われます
たとえば、プロフェッショナルとしての医師をめざすのだ、という大きな目標をもったとしても、そのために毎日何をすればよいのか、一向に見当がつかないでしょう。
 そこで、「制限値」として「毎日、少しでも本を読む」ことを、まず習慣化するまで続けて、学び続ける習慣を身につける。次に、「朝、人に会ったら目を見て挨拶する」ことを習慣化して、コミュニケーション力をつけていく。それから「スウィングドアを開けたら、必ず後ろを見て人が来ていたら、支えて待つ」ことにして、利他的な態度を身につける等々…。



 たとえ、小さなことでも、できることから少しずつ、習慣化するまで続けるのが肝心なのですね。

 ワタミ株式会社社長の渡邉美樹氏は、イギリスの詩人、ジョン・ドライデンの言葉だとして「はじめは人が習慣をつくり、それからは習慣が人をつくる」という名言を紹介しています。(渡邉美樹『使う!論語』[三笠書房]
 つまり、あることを習慣化することによって、次第に自分自身も変わっていくという意味ですね。
雪の結晶
無定型の水分子も、いったん結晶化すると
美しいパターンを示してくれます。

 一年目の研修医の先生方は、この春から医師としての歩みを始めたわけですが、「大人の医師」となるための修行はこれから一生続きます。それも、毎日続くでしょう。

 スタンリー・キューブリック監督の遺作『アイズ・ワイド・シャット』(1999年作品)という映画の中で、医師役をしていたトム・クルーズが言ったセリフに「Onece a doctor, always a doctor.(いったん医者になったら、常に医者なのさ)」というのがありました。
 医師としての言動が習慣化するまで、わたしたちは「勤精進」しなければならないのかも知れませんね。