アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズもリード大学に通っていたころに禅に興味をもちました。ジョブズは、自己の尊厳と可能性を最大限に認める禅に触れ、自分自身を高めるにあたって、禅の考え方がきわめて重要だったと、後に語っています。ジョブズが師として選んだのは、曹洞宗の僧侶である乙川弘文でした。
石井清純監修・角田泰隆編 『禅と林檎』(MPミヤオパブリッシング) |
その中に、ジョブズのこんな言葉が取り上げられています。
「歳をとればとるほど、
動機こそが
大切だという確信が深まる。」
動機というのは、何かの行動を起こす際の直接の原因のことです。
では、「動機」ならどのような動機であってもよいのかというと、決してそうではありません。本の解説によれば、「ジョブズの言葉に取り上げられている大切な「動機」とは、「正しい主体性に裏付けられた動機」のこと」なのです。
そして、ジョブズは、歳をとればとるほど、「動機こそが大切だ」という思いが深まるのだ、と言っているのです。
『禅と林檎』の解説によれば、「道元禅師の『学道用心集』に、発心(ほっしん)正しからざれば、万行(まんぎょう)空しく施す 〈発心が正しくないと、すべての修行が空しいものとなってしまう〉という言葉が出てきます。発心とは、修行の最初に起こす心。その心が正しくなかったら、その後のすべての行いが無意味なものになってしまう」とあります。
「私さえ良ければ」とか「今さえ良ければ」というのは正しい「動機」ではないのです。「みんなが良くて、将来も良い」という「動機」でなければならないのです。
サイモン・シネック 『WHYから始めよ!』 (日本経済新聞出版社) |
サイモン・シネックによれば、この「動機」とは、WHYに対する答えです。「なぜ会社を興そうとするのか?」「なぜ医者を志すのか?」「なぜここで働くのか?」等々の質問に対する答えが、「動機」となるのです。その後で、どのようにすればよいのか(HOW)、そして、何をすればよいのか(WHAT)が続いてくるのです。
スティーブ・ジョブズは、庶民ひとりひとりにコンピュータを行き渡らせ、世の中を革新するため(WHY)に、どのような製品を作り、どのように世の中に普及させるか(HOW)ということを考えて、アップルを立ち上げました。そして、そこから、魅力的な製品(WHAT)が次々と生みだされていったのでした。
コンピュータそのもののシェアでは、ウィンドウズが圧倒的に有利ですが、iPodやiPad、iPhoneなど、世の中の文化を変えてきたのは、やはりアップルだったのではないでしょうか?
病院で麻酔科医として働くことを考えてみましょう。
日々、手術室で麻酔をするというのは、WHATに過ぎません。どのように(HOW)麻酔をするのか、というのは麻酔の方法のことではありません。(どういう麻酔方法を選択するかというのは、やはりWHATでしょう)常勤医として、いわゆる一人がけをするのか、パート医として一件の麻酔を担当するのか、あるいは研修医の指導をしながら麻酔をするのか、ということがHOWに当たるのではないでしょうか?
そして、もっとも大切なWHYは……。
さて、あなたは何故、手術室で麻酔をしているのでしょうか?