2013年11月20日水曜日

うれし恥ずかし輸液は楽し

 現在、麻酔科ローテーション中のHs先生の身長は154cmくらいなのだそうです。でも、大学時代はバレーボール部に所属して、リベロとして活躍されていたそうです。

 Hs先生は、今日は輸液に興味をもちました。
 手術室での開始輸液は、たいていリンゲル液を用います。これは、全身麻酔の導入が終わると、全身の血管が拡張して相対的にハイポボレミアになるのを補うのと、手術に伴う出血による体液の喪失分を補うためです。
輸液をながめて微笑むHs先生♪
このリンゲル液は、19世紀の後半に、生物学者のリンゲル先生が開発したものです。当初は、三つのクロライド液、すなわちNaCl、 KCl、 CaCl₂、という電解質からできた水溶液でした。この古典的リンゲル液だと、塩素濃度が155.5mEq/Lと、かなりの高濃度になってしまいます。このため、しばしばクロール中毒(血中の重炭酸イオンが塩素イオンで稀釈されて濃度が低下して、高クロール性アシドーシスとなる)を引き起こしたそうです。
 この欠点を解決したのが、ハルトマン先生です。彼は、陰イオンとして乳酸イオンを水溶液に添加して、水溶液の塩素濃度を下げました。1932年のことでした。本当は、血管内に存在している重炭酸イオンを陰イオンとして使いたかったらしいのですが、カルシウムイオンなどが存在すると沈殿を形成してうまく調整できなかったようです。

 今では、乳酸リンゲルの他に、酢酸リンゲルや重炭酸リンゲルも使用できるようになっています。乳酸は、肝臓で代謝されるので、大量に乳酸リンゲルを輸液すると肝臓に負担がかかります。また、そもそも肝機能の悪い患者にとっては、乳酸の負荷は乳酸アシドーシスの原因ともなりかねません。酢酸イオンや重炭酸イオンを陰イオンとして使うリンゲル液が工夫されてきたのは、肝臓への負担軽減を考えてのことだったようです。

 このリンゲルベースに、分子量が7万くらいのデンプン分子を添加したものが、代用血漿と呼ばれる輸液です。これは、すぐには血管外に逃げ出さないので、一時的な血管内ボリューム負荷が期待できます。

 輸液には、維持液と呼ばれるものがあります。これは、一日中、人が飲まず食わずでいても生きていける内容の輸液です。だから、リンゲル液に比べると、維持液は、ナトリウム濃度が低く、カリウム濃度が高くなっています。それに、ブドウ糖も数%含まれていて、ある程度カロリーが補われます。

 リンゲル液や生理食塩水を一日中ダラダラと輸液してはいけないのは、ナトリウム(食塩)の摂取量が過剰になってしまうからです。生理食塩水のナトリウム濃度は154mEq/L。重量%でいうと、0.9%。つまり、1L中に、9gのナトリウムイオンと塩素イオン(食塩)が入っています。だから、一日に必要な水分量、約2Lを輸液すると、一日の食塩摂取量が18gとなってしまうのです。

 小児の手術時によく用いられるのは、初期輸液と呼ばれる1号輸液です。この輸液の特徴は、カリウムが含まれていないこと、糖分が含まれていることです。脱水状態の小児で、尿が出ていない場合、カリウムの含まれた輸液を急速に行うと、高カリウム血症を引き起こすおそれがあるので、このような輸液が作られました。

 Hs先生は今日、「輸液って面白い」と、少しだけ思いました。
今朝の日の出。
アイソン彗星は今、どの辺りにいるのでしょうか?