2013年11月10日日曜日

一言よく人を生かし、一言よく人を殺す

 遠藤功氏の『Weekly現場通信 vol. 119』(2012-07-06)に、鉄道整備株式会社(通称テッセイ)の「ノリ語集(Angel World)」「ノリません語集(DEVIL NOTE)」が紹介されています。

 テッセイというのは、JR東日本のグループ会社で、東北・上越新幹線の車両清掃、東京駅・上野駅の新幹線駅構内の清掃などを主な業務とする会社です。今、この清掃会社が世間で話題になっています。
遠藤功『新幹線お掃除の天使たち
「世界一の現場力」はどう生まれたか?』(あさ出版)

 テキパキと短時間で新幹線の清掃をすます訓練された技術をもち、困っている乗客に手を差しのべる思いやりの心があり、旅の思い出に残るようなおもてなしをし、果ては、乗客の目線から気づいた駅構内の改善提案までをJR東日本の経営陣にする、素晴らしい会社なのです。このテッセイで働く人たちは、今では「お掃除の天使たち」と呼ばれています。

「ノリ語集」と「ノリません語集」
(遠藤功『新幹線お掃除の天使たち』より)

 このテッセイの今村直子さんという方が中心となって、「ノリ」がよくなる言葉を意識的に使おうと意図して作ったのが、「ノリ語集(Angel World)」。そして、同時に作ったのが、「ノリ」が悪くなる言葉を例示した「ノリません語集(DEVIL NOTE)」
 この二つの小冊子は、主任以上に配布されているそうです。






 遠藤功氏は、「ノリません語集(DEVIL NOTE)」の方が、むしろ大切かも…と思ってしまったそうです。というのは、ご自身がふだん、何気なく使っている言葉が載っていたからです。
 たとえば、「がっかりだね」「こんなもんかよ」「仕方がないやつらだな」「頼りにならない」「ほんとうにダメだね」「やるきあるの」…。腹を立てて、気分が高揚してしまって、無意識に使っていると、言い訳をされていますが、確かにこうした言葉を投げかけられた当人は、傷つき、気分が落ち込んでしまって、「ノリ」が悪くなるに決まっていますね。

 この二つの語集の1ページ目には、同じ文章が書かれているそうです。

「あなたの話すその一言。その一言で励まされ、その一言で夢を持ち、その一言で腹が立ち、その一言でがっかりし、その一言で泣かされる。ほんのわずかな一言が不思議な大きな力持つ。ほんのちょっとの一言で。一言よく人を生かし、一言よく人を殺す」
 



 同じ状態を表現するのにも見方を変えれば、ネガティブにもポジティブにもなる、という発想から生まれたのが、『ネガポ辞典』(主婦の友社)でしょう。これは、2010年の全国高等学校デザイン選手権大会(デザセン2010)で、全国第3位となり、翌年6月にiPhone用のアプリとしてリリースされたものを書籍化したのだそうです。
 たとえば、「空気が読めない」という否定語は、「まわりに流されない」「自分の意見を主張できる」といった肯定語に置きかえられます。「流行に疎い」のも「伝統を大事にする」「ゆったりしている」「個性がある」となるのです。







 モノの見方次第、要は心の持ちよう次第で、同じ現象を見ていてもとらえ方はネガティブにもポジティブにもなる、ということなのでしょう。だったら、相手が傷つく、否定語や「ノリません」語を使うより、肯定語や「ノリます」語を使って話をする方がいいに決まってますよね。

 マザー・テレサは、カルカッタで「死を待つ人の家」を営んでいるときに、道ばたの排水溝に落ち込んで、ウジ虫と泥にまみれて、傷ついていた瀕死の「浮浪者」を見つけたときに、その「浮浪者」の中にキリストを見出したそうです。おそらく、その人に向かって「イエスさま」と呼びかけたのでしょう。そう呼びかけることで、目の前にある現実が、まったく別のものに見えたに違いありません。
 そして、マザーはイエスの世話をするように、その瀕死の「浮浪者」の世話をしたのでしょう。
 ぼくには、そこまでの信仰心はありませんが、先のふたつの本を読んでみて、使う言葉に気を配るだけでも、少しは状況が変わりそうな気がしてきました。