グレン・グールド:ピアノ 彼は、70分以上の変奏曲を一枚のLPに 収めるために早いテンポで演奏しました |
かつて、麻酔科医が一人だけという病院で仕事をしていた頃に、外科の全麻下手術が進行中に、整形外科医のE先生から、自分の手術を早く始めたいので、何とかならないかと言われたことがありました。
外科の手術が終わるまで待ってほしいと伝えると、整形外科医曰く「麻酔は誰がやっても同じやろ。外科の先生、誰か空いてないの?」と。
一人麻酔科医長の病院だったので、外科の先生方も全身麻酔をこなせる力をもっておられました。確かに「誰がやっても同じ麻酔」なのかもしれませんが、「誰がやっても麻酔は同じ」と言われると、正直、少しムッとなってしまいました。
スコット・ロス:ハープシコード ライブ演奏です |
この話、実はオチがあります。当の整形外科医のE先生自身が腰椎ヘルニアの摘出術を受ける羽目になったとき、次のように言われました。
「自分の手術のときの麻酔は、麻酔の専門医に頼むわ」
ご自身の患者さんが麻酔を受けるときは「誰がやっても同じ」なのに、ご自身が麻酔を受けるときは「誰がやっても同じではなかった」のですね…。
キース・ジャレット:ハープシコード ジャズ・ピアニストが真正面から バッハと取り組んでいます |
「麻酔の質」を考えたときに、医療の標準化という意味からは、麻酔科医によって「麻酔の質」が変わることは、あまり良いことではないかも知れません。問題は、「麻酔の質」を何で測るかということでしょうか?
最近はやりのERAS(Enhanced Recovery After Surgery手術後の回復強化プログラム)に則った麻酔法ということになるのでしょうか?このプログラムの中には、①術前の飲水を2時間前まで行う ②前投薬をしない ③深部静脈血栓を予防する ④適正な輸液管理 ⑤術中低体温の予防 ⑥術後悪心・嘔吐対策 ⑦術後疼痛管理 など、麻酔科医が関与する項目が多々あります。
セルゲイ・シェプキン:ピアノ テンポは決してグールドのように早くないのに 何とも言えない躍動感があります。 グールドに次いで衝撃を受けた演奏です |
これらの標準化を進めたら、「誰がやっても同じ麻酔」になるのでしょうか?
気持ちの上では、自分がやる麻酔がいちばんいいのだ、と思いたいところですが、患者さんの立場からすれば、麻酔科医を選べない以上、標準化された方法に則った麻酔の方が安心できるかもしれませんね。
弦楽三重奏による演奏 新鮮な趣で、まったく別の 作品に思えます |
さて、今日の写真で並べてきたのは、手元にあるバッハの『ゴルトベルク変奏曲 BWV988』のCDです。バッハが楽譜に残した曲はひとつなのに、手元にあるだけで、これだけのバリエーションがあります。同じ曲だけど、どれも印象が異なっています。
麻酔というのも、同じ方法で行ったとしても、麻酔科医によって微妙な味の違いが出るのは、これらの『ゴルトベルク変奏曲 BWV988』の演奏のように、演奏者が変わると印象が変わるのと似ているのかも知れませんね。
目下、いちばん気に入っている演奏です。 室内管弦楽・弦楽四重奏・ピアノとベースのデュオ がランダムに変奏曲を演奏しています。 何とピアノとベースの部分はジャズ風にアレンジされていますが、 通して聞いていても、まったく違和感がありません。 不思議な魅力をもったアルバムなのです。 |