今月初めに『言える化』(潮出版社)を出版された、遠藤功氏の講演会を神戸まで聞きに行ってきました。
『言える化』の中で紹介されているのは、「ガリガリ君」を作っている赤城乳業という会社です。講演は、大体著書の内容に沿っていたので、目新しい点はなかったのですが、話で聞くと印象に残った部分が本とは違いました。
赤城乳業が奨励しているのは、感性教育。
人間としての情緒性を育むことを目的として、ミュージカルや演劇、映画などを鑑賞するのが、その内容です。この費用は、すべて会社持ちです。ただし、演劇などに出かけるときの条件は、入社同期のメンバーと一緒に行くこと、なのだそうです。
同期入社の仲間たちは、入社時にはとても高い絆を持っているのに、時が経ち、働く部署も異なってくると、お互い接触する機会がどんどん減っていきます。せっかくの仲間意識が薄れると、仕事をする上でも何となく敷居が高くなってしまい、人間関係という貴重な財産が失われがちになります。
赤城乳業の同期入社の仲間で取り組む「感性教育」には、こうした仲間意識の薄れを防ぐ意味もあるのだそうです。
ところで、医師の卒後臨床研修においては「感性教育」に十分な注意が払われているでしょうか?
厚生労働省がかかげる「臨床研修の到達目標」の基本理念は、次のような内容になっています。
臨床研修は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学おより医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならない。
医師臨床研修では、知識領域、技能領域とともに態度領域の教育が必要であると言われています。この態度領域の教育が目指しているのが、「医師としての人格をかん養(涵養)」することなのです。しかしながら、この「医師としての人格」の具体的な内容については、基本理念の中では触れられていません。
赤城乳業で行われているような「感性教育」を、この態度領域に含めてもよいかもしれないな、と講演を聞いていて思いつきました。
医師としてのあるべき姿を、研修医の先生方は、どのようにして学んでいるのでしょうか?たいていは、先輩ドクターの診療態度を見て学んでいる(ロール・モデル)のかもしれませんが、医学や医療を描いた小説や映画などからも、医師のあるべき姿勢を学べる場合があるのではないでしょうか。
「映画を観ながら生命倫理学を学ぶことの利点は、問題を実感できる、強い感情が引き起こされる、さまざまな立場を追体験することができる、登場人物に対する反応を通して「どのような人間であるべきか、どのような性質(徳性)をもつべきか」という問題を考えることができることにある。
物語は多くの場合フィクションなので、鑑賞者は第三者としてある程度距離を置きながら作中の出来事や人物について考えることができる」と、浅井篤先生は述べています。(宮崎仁・尾藤誠司・大家定義編『白衣のポケットの中 医師のプロフェッショナリズムを考える』(医学書院))
自分自身の姿は、なかなか客観的にながめられないもの。映画に出てくる医師に自分自身を投影してみれば、映画鑑賞も十分に「医師としての人格をかん養する感性教育」となるのではないでしょうか?
あ、それから、今日の講演会で遠藤功氏が教えてくれた情報です。あさって、10月29日には、クリームシチュー味のガリガリ君が新発売されるそうです。遠藤氏は、先日試食されたそうですが、なかなかおいしかった、とのことでした。