しかし、「早く這ってほしい」「早く歩いてほしい」という期待が過剰になると、子どもには、必ずしもいい影響を与えないようです。
「テストでもっといい点をとってほしい」「運動会のかけっこでは一番になってほしい」という気持ちが強ければ強いほど、子どもは「親から本当に愛されている」という実感をいだかなくなるのだそうです。そして、そのように感じる子どもは親に愛着形成できなくなると言います。過剰期待は、子どもに「現状のあなたには満足できません」というメッセージを送るのと同じことだからなのです。
佐々木正美『子どもの成長に 飛び級はない』(学習研究社) |
児童精神科医の佐々木正美先生は、アメリカの精神分析の大家、エリクソンの信奉者ですが、今の日本には、このエリクソンの考え方を導入することが大切だと主張されています。
エリクソンは、大人になるまでの成長に応じて、「乳児期」「幼児期」「児童期」「学童期」「思春期」という5つの区分けをしました。そして、それぞれの時期に何が最も重要なテーマとなるのかを考察しました。
「乳児期」には、「基本的信頼感(basic trust)」が最も必要なのだそうです。「基本的信頼感」を育むことができず、周囲の人に対して不信感のような感情をもってしまうと、子どもは希望をもって生きていくことができなくなると言います。
ひと頃、抱き癖がつくので、子どもが泣いたからといって、すぐにだっこしてはいけない、という「子育て法」が主張されたことがあります。それは間違いで、泣く子にはすぐにかまってあげて、どんどん赤ちゃんはだっこしてあげて、と佐々木先生はすすめています。
どんぐりは、まだ緑色でした |
現状では、子どもに対して「親が望んだ」愛し方をしているようだ、と佐々木先生は指摘しています。つまり、お金や時間をかけて、子どもに自分たちの夢を託しています。しかし実際は、親は、自分の都合や思いを基準に子どもを愛するだけで、「子どもが望む」ようには愛していないのです。自分の希望や夢を子どもに伝えることはできても、子どもの望みに合わせることができないのです。たとえ、親が子どもの将来のために、と思っていることであっても子どもが望んでいなければ、それは過剰期待になってしまいます。
思春期・青年期に子どもが荒れることの背景には、この過剰期待があるとも言われています。
「乳児期」に「基本的信頼感」が育まれた後に、「幼児期」では「自律性を培う」、「児童期」では「自発性を育む」、「学童期」では「勤勉性を身につける」そして、「思春期・青年期」では「アイデンティティを確立する」と続きます。
緑の葉と紅葉のグラデーション |
これらの中でも一番大事なのが「乳児期」で、各々の段階は、飛ばして次に進むことができないので、遅れていても「基本的信頼感」を育むことが第一番目の課題になるのだそうです。
そう言えば、コーチングの技法の中で、「承認(アクノレッジメント)」が、クライアントの自己成長に対する認知を促進するスキルとして重要な柱になるとされていますが、ひょっとしたら、大人になっても人の成長過程には差がないのかもしれませんね。