これは、今朝見たうろこ雲の写真です。モノクロ写真にすると、煙か森の航空写真かはっきりしませんね。カラーにすると、バックの青い空が見えて、「あ、雲かな」と分かります。
麻酔器には通常、酸素、空気、亜酸化窒素(笑気)の流量計があって、正面には、流量を調節するノブがついています。たとえば、ドレーゲル社の麻酔器Apolloでは、この三つのノブは横に並んでいます。これをモノクロ写真で撮ってみると、こんな感じです。
色はなく、灰色の階調の差だけで、「色」が判別されるだけです。それぞれ何色だったか思い出せるでしょうか?
カラー写真にしてみると、酸素は緑、空気は黄色、笑気は青色と一目瞭然となります。
さて、さきほどのモノクロ写真で、ノブの違いを灰色の階調だけでなく、もうひとつ区別できるような工夫がしてあったのに気づかれたでしょうか?実は、ノブの側面の溝の刻み方が、酸素だけ他のふたつと区別されています。拡大するとこんな風になっています。
笑気のノブ(左)と空気のノブ(右)の 側面は同じ溝がきざまれています |
酸素のノブ(右)だけは、少し深めの 異なる溝がきざまれています |
これは、暗闇でも直接目で確認しなくても、指先の感覚だけで、酸素のノブを区別できるように、という工夫なのです。
眼の網膜には、色を認識する錐体細胞と、ものの形や動きに反応する桿体細胞があります。全色盲は、色を認識する錐体細胞が先天的に欠落している人びとです。全色盲は劣性遺伝し、通常、発生頻度は3万人に一人とされています。
ところが、ミクロネシアにあるピンゲラップ島という島では、島の人口の三分の一が全色盲の遺伝子を持っていて、700人余りの島民のうち、57人が全色盲なのだそうです。実に12人に1人という確率です。
この島に全色盲が多い訳は、約200年以上前に島を襲った台風に由来するそうです。当時千人程度いた島民のほとんどが、台風による波にさらわれ、わずかに20人余りが生き残りました。そのときに生き残った島民の中に、全色盲の遺伝子をもったオコノマンという男性がいました。それから何世代か経て人口を増やしましたが、近親結婚が増えたために、現在のように全色盲の島民が増えたのだそうです。
全色盲の人は、錐体細胞がないので、色を見分けることができません。しかし、その分桿体細胞が活躍して、物の形、質感、輪郭、境界線、釣り合い、奥行き、そしてほんのわずかな動きに対して鋭敏になるそうです。
(以上、オリヴァー・サックス『色のない島へ 脳神経科医のミクロネシア探訪記』[早川書房]を参考にしました)
さきほどの流量計のノブの側面の溝の違いなどは、全色盲の人だったら、ひと目で気づいていたことでしょうね。日ごろ、色に頼っているわれわれは、注意をうながされるまで、溝の違いにはなかなか気づかないようです。