2013年4月27日土曜日

「時」にはクロノスとカイロスとがある

 ギリシャ語には「時」を表すのに、クロノスとカイロスという二つの言葉があります。クロノスというのは、いわゆる時計の針がきざむ量的な時間。一方、カイロスというのは、一回限りの、一生のうちで二度とめぐってこない、まさに今このときという時間で、質的な意味を含んでいます。

4月25日撮影
たとえば、一昨日撮った元看護師宿舎の右の写真。












4月27日撮影

 今日見ると、建物はすでに半分なくなっていました。

 一昨日、写真におさめるのをためらっていたら、今後永久に元の建物の写真は撮れなかったわけです。
 まさにカイロスですね。









 ひとつの職場で昇進していくのはクロノスに従って待っていればいいのでしょうが、職場を変わるとなると、その時期をいつにするかというのは、まさにカイロスだと言えます。
 変わる気があっても、時期を延ばしている間に別の人物が採用され、定員が充足されて変われなくなるかもしれません。あるいは、現在の職場の事情で動きたくても動けないこともあるわけです。
 それに何より、数ヶ月先の命が必ずあるなどと誰が断言できるでしょうか?
 
 長年、日本で死生学を教えてこられた上智大学名誉教授のアルフォンス・デーケン氏は、次のように述べています。


 「時間の貴重さを意識して、カイロスという唯一の機会をしっかりつかむことができれば、人間として一段と大きく成長することが可能です。深みのある、真に人間的な出会いも、このカイロスから生まれます。今までの時間意識を変革し、自分の人生のカイロスに対してためらわずに進む心構えが大切だ」と。
アルフォンス・デーケン『よく生き よく笑い よき死と出会う』(新潮社)より






 デーケン氏はまた、「人間はだれでも自分のおかれた状況の中で、真に大切な一つの可能性を選び取って生きなければならない」とも述べています。
アルフォンス・デーケン『ユーモアは老いと死の妙薬』(講談社)より





 そして、『旧約聖書』の中の、カイロスについて書かれた、以下のコヘレトの言葉が、デーケン氏のお気に入りなのだそうです。

 何事にも時があり
 天の下の出来事にはすべて定められた時がある。
 生まれる時、死ぬ時
 植える時、植えたものを抜く時
 殺す時、癒す時
 破壊する時、建てる時
 嘆く時、踊る時
 石を放つ時、石を集める時
 抱擁の時、抱擁を遠ざける時
 求める時、失う時
 裂く時、縫う時
 黙する時、語る時
 愛する時、憎む時
 戦いの時、平和の時

 (3章 1 - 8節)