2013年4月14日日曜日

麻酔科研修と経験学習のサイクル

 明日からいよいよ一年目の研修医の各科での研修が始まります。
Welcome, fresh persons!



 一年目の研修医の先生方は、昨日までは病院全体のオリエンテーションとシャドウイングというマン・ツー・マン指導を受けていました。

 フレッシュパーソンを受け入れるにあたって、卒後の医師初期臨床研修のあり方について考えてみました。




On-the-Job Training


 麻酔科の研修では、実際の手術に即して、上級医とともに手術時の麻酔を経験します。このように臨床の現場で実際に業務に参加しながら、その経験を通じて学ぶことを実務研修(On-the-Job Trainig : 略して OJT)と呼びます。

 このような「具体的な経験(Concrete Experience)」をいたずらに重ねていくだけでは、「動脈ラインや挿管がうまくできる研修医」というだけの、単なる技術屋で終わってしまいかねません。

Reflection:もともとは水面などに
景色が映ることを言います



 何かを行った経験に対して、自らふり返りをしてみたり、他者からのフィードバックを受け容れることが次のステップへの足がかりとなります。これを「省察的観察(Reflective Observation)」と呼びます。
 この段階では、上級医の言うことはすなおに聞けても、同僚や他の専門職(たとえばナース)や非医療職、患者さんやその家族からのフィードバックに対しては、ときにムカッとして受け容れられないことが見られます。こんなときは、感情を切り離してフィードバックを受け容れる訓練を積むことが大事ですね。

上級医からのフィードバックを受け容れて
経験を一般化する

 具体的な経験というのは、一度きりのもので、そこから得た教訓を一般化(理論化)しておかないと、次の機会に活かすことができません。この段階を「抽象的概念化(Abstract Conceptualization)」と呼んでいます。
 医療では、確立した理論がない状況や、不確定な状況の中で問題を解決しなければならない場合も多く、そのような中での判断の基準を自分なりに発見することが求められます。

麻酔科研修では、能動的試行を経ずに
次の症例が待っていることが多い




 そして、発見ないし再発見した理論(この段階ではまだ仮説ですが)を、可能であればできるだけ安全な状況で、あるいは小さな規模で試みに適用するのが「能動的試行(Active Experiment)」です。シミュレーターやロールプレイなどができればよいのですが、麻酔科では、新たな患者さんを相手にする場面の方が多いかも知れません。




 こうした省察・一般化・能動的試行という過程を経ていれば、次の具体的経験に望むときには、たとえば同様の症例であっても一段高い次元でOJTができるわけです。

この経験学習のサイクルを提唱したのは、アメリカの教育学者デビッド・コルブでした。
 要は、体ばかりを使う実務経験のやりっ放しではなく、頭も使って省察してみることが大事みたいです。