侵襲反応制御医学研究会会場:キャンパスプラザ京都 |
大津日赤の発表では、過去の学会報告をもとに、再クラレ化が起こる機序について、3コンパートメントモデルを用いて説明を試みていました。公立豊岡病院からは、全麻下帝王切開術で、術後病棟で意識混濁と呼吸困難に陥った症例が報告されていました。
ロクロニウムの再クラレ化といった「不具合」を生じるのは、次のような誤解があるせいかもしれません。
第一に、効果発現が早いので、作用持続時間も短いだろうと誤解されているのではないでしょうか。ロクロニウム(Rocuronium)は、その効果発現が迅速であるということが歌い文句でした。(一般名の頭の二文字は、Rapid onsetを意味していると言われています)しかし、ロクロニウムの作用持続時間は、実は先代のベクロニウムと同程度(0.9mg/kgの初回投与だと、半減期は約76分程度)なのです。
第二に、ロクロニウムは力価がベクロニウムの1/6程度しかないので、弱い筋弛緩薬だと誤解されているのではないでしょうか。確かにロクロニウムはベクロニウムよりも低力価なので、投与する際にはベクロニウムの数倍の量が必要です。(気管挿管に要する初回投与量は、ベクロニウムが0.08〜0.1mg/kgなのに対して、ロクロニウムは0.6mg/kgです。ときには速やかな効果発現を期待するために、1.2mg/kgという大量投与が行われることもあります)
ロクロニウムとベクロニウムの分子量を比べてみると、それぞれ609.7と557.8というようにほとんど差がありません。つまり、体内に投与された分子数で比較してみると、ロクロニウムの方が圧倒的に多いのです。(筋弛緩効果がアセチルコリンリセプターの占拠率に比例するとすれば、一度にたくさんばらまかれるロクロニウムの方が効果発現が早いのもうなずけます)
さて、ロクロニウムの拮抗薬スガマデックスが登場して、いかにも筋弛緩のリバースが安全になったかのようなムードが漂っていますが、スガマデックスを投与すれば、ロクロニウムによる筋弛緩が完全にのぞけるというのが第三の誤解かも知れません。
ロクロニウムとスガマデックスは、1分子が1分子と結合します。したがって、術中に投与されたロクロニウムの総量が大量になると、スガマデックスで除去されなかったロクロニウムが再びアセチルコリンリセプターについて、再クラレ化を起こすことは十分に考えられることなのです。
雪月塔 |
研究会が終わって、外に出ると雪が降っていました。京都駅に向かって歩いていると、東の空には宵の月がかかっていました。明日が満月なので、ほぼ正円の月でした。
月の左手に灯りが点った京都タワーという構図がとても印象的でした。
風流の極みとして、雪月花と言われることがありますが、さながら雪月塔といったところでしょうか。