2013年9月22日日曜日

PowerPointよ、さらば!

 秋と言えば、学会の季節。最近はポスターの発表が多くなってきましたが、口演と同様に聴衆の前で話をする、という形式は変わっていません。

 近年は、PowerPointを使って、ポスターや口演でのスライドを作製することが主流となってきたようです。みなさんも、最初からパソコンに向かって、一枚一枚スライド原稿を作っているのではないでしょうか?
 でも、果たして、それで満足のいくプレゼンテーション(プレゼン)ができるでしょうか?自分自身の経験を振り返ってみても、完成までに四苦八苦したことしか思い出せません。あれもこれもと盛り込んでいくと、プレゼンの制限時間を超えてしまうし、一枚のスライドに載せる本文の行数が増えていくばかり…。

ガー・レイノルズ
『シンプルプレゼン』
(日経BP社)
プレゼンを準備する段階では、「パソコンを閉じて、作業はアナログで」と勧めているのは、ガー・レイノルズさんです。アイデアを練る段階ではパソコンを閉じて、一人になる時間を作ること。そして、ノートやスケッチブック、付箋(ポスト・イットなど)を使ったり、ホワイトボードに描いたりするのがいいそうです。

 そして、このとき、最も重要なことは、メッセージをしぼり込むこと。何を加えて何を省くか、が大事なのです。たとえば、症例報告のようなプレゼンであっても、学会前ともなると、文献を沢山読みこんで、知識があふれんばかりになっているだけに、あれも言いたい、これも伝えたい、となりがちなのではないでしょうか。
 ここで忘れてならないのは、自分がどれだけ勉強をしたかを伝えるのではなくて、聴衆のために何を語ればよいのか、という姿勢です。
話し終わったとき、聴衆の意識や行動をどのように
変えたいのか?それが問題だ


 ガーさんは、プレゼンテーション・アークというコンセプトを意識することが大事だと強調しています。つまり、プレゼンを聞くまえの聴衆の意識や行動を、プレゼンを聞いた後に、どのような状態に変えたいのかを、何より優先して考えるべきなのです。(たぶん、聴衆は誰も、あなたがどれほど文献をあさってどれほど勉強したか、ということには興味はないはずです)


 次に、スライドやポスターのデザインについては、シンプルさ(Simplicity)を意識するようにとガーさんは言っています。彼が最も勧める方法は、テキストの量は最低限に抑えて、そこで訴える効果的なビジュアルを使う方法です。ビジュアルは必ずしも写真である必要はなく、グラフなどでも構わないそうです。

 『シンプルプレゼン』には、DVDが付録についていて、ガーさんが勧めるプレゼンの実際を、彼自身のプレゼンで見せてくれます。

 この本以外に、プレゼンのときの訳に立ちそうな本を紹介しておきましょう。

・池上彰『わかりやすく〈伝える〉技術』(講談社現代新書)
池上彰『わかりやすく
〈伝える〉技術』
(講談社現代新書)

 これは、NHKでニュース解説員を務めてきた池上さんが、自らのテレビでの現場での経験から培ったノウハウを紹介したものです。〈わかりやすさ〉を実現するためには、最初に、聞き手に「地図」(つまり、話そうとする中身の目次のようなもの)を示すことが大事だと強調しています。確かに、スライドを用いた、ちょっと長めの講演では、今話されている内容が全体の話の中で、どのような部分に当たるのかをときどき示してもらった方が、理解しやすいことはしばしば経験します。









・ビル・レーン『ウェルチの「伝える技術」』(PHP研究所)
ビル・レーン『ウェルチの
「伝える技術」』
(PHP研究所)

 この本は、プレゼンの方法についての本ではありません。20年以上にわたって、GEの元CEOであるジャック・ウェルチの専属スピーチライターを勤めた著者が明かした苦労話なのですが、人に印象を与えるスピーチとはいかにあるべきか、を学ぶ上で大いに参考になる本です。
 印象的だったのは、次の件でした。
 「私がこれまで見た中で最高のプレゼンテーションのうちのいくつかは、私がこれまで会った中でもっとも寡黙でおとなしい人間によるものだった。彼らのパワーは、派手な動作の中ではなく、仲間に伝えようとする思いの中にあった。
 たとえば学会会場で、たとえば病院内や会社の中で、自分がプレゼンテーションするときに、PowerPointを使いこなせず、手書きのポスターになって、たどたどしく、たとえどもりながらの説明であったとしても、どれほどの情熱をもって仲間に伝えようとしているのかどうかという点が、そもそもの出発点なのかもしれませんね。