2013年9月12日木曜日

ものすごくうるさくてありえないほど近い

 昨日は、9.11。犠牲になった人々に思いをはせて、スティーブン・ダルドリー監督の『ものすごくうるさくてありえないほど近い』(2011年作品)を夜中に見直しました。

 これは、ジョナサン・サフラン・フォアの同名の原作小説を映画化したもの。
 2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ(9.11)で父親を失った、9歳の少年オスカー(トーマス・ホーン)が、9.11からしばらく後に、父親(トム・ハンクス)のクローゼットで、片隅にBlackと字の書かれた紙袋にはいった一本の鍵を発見します。オスカーは、Blackという名前をたよりにニューヨーク中のBlackさんをたずねて回ります。
 この少年オスカーは、実はアスペルガー症候群の疑いがあるとされ、対人コミュニケーションが苦手です。それでも、父親が残した(と彼は信じていた)鍵に合う鍵穴を探して、勇気を駆り立てて、苦手な、人との対話をくり返してゆくのでした。
 オスカーは、父親には心を開いていたのですが、母親(サンドラ・ブロック)にはなぜか心を閉ざしていて、自分がニューヨーク中のBlackさんを訪ねて鍵穴を探していることは母親には内緒にしていました。

 そしてある日、ついに鍵のナゾが解けるのですが、実はその鍵は……というストーリーです。

 9.11のその日、学校から早く帰宅させられたオスカーは、父親からの留守電を聞きます。そして、その留守電は、ちょうどテレビで見ていたビルの崩落とともに途切れてしまいます。父親からの留守電を前にして、オスカーはすくんでしまって受話器を取ることができず、留守電が途切れた直後に気絶してしまいます。その後は、自分の体を自分で傷つける自傷行為をくり返します。いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。
ジョナサン・サフラン・フォア 近藤隆文=訳
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(NHK出版)
原作は、オスカーの一人称で語られていて、
まるで言葉の洪水のようです。
一方、オスカーの母親は、夫を失った喪失感から立ち直ろうと努力しています。

 なかなか心が通い合わない母子が、哀しみをかかえて暮らしている。見ていて、辛く切なくなる展開です。
 でも、最後には、少年は母親を理解して受け入れます。そして、生前に父親が隠していた、オスカー宛のメッセージを発見して、それまで乗ることも触ることもできなかったブランコに乗って、次第に大きくこぎ始めることができるようになりました。

 PTSDと喪失感から立ち直る希望の光が見えたところで映画は終わっています。








 9.11の後や3.11の後に、同じような境遇の子どもたちや家族が、大勢現れたにちがいありません。絶望の淵に追いやられた人々に勇気を与えてくれる作品です。