PMMAは、メチルメタクリレート(MMA)という物質が連鎖重合してできたアクリル樹脂です。図の赤い二本線のところが二重結合になっていますが、ここをフリーラジカルなどの物質が攻撃すると、一本の鎖がはずれます。この外れた鎖の両端もまた、フリーラジカルになっているので、それぞれが別のMMAの二重結合に攻撃をしかけるのです。
こうして、どんどん反応が進んでいって、MMAが長くつながった高分子のPMMAが重合されるのです。
実際の手術のときに、褐色のアンプルに入って、芳香を放っているのがMMAで、白い粉状になっているのが、ある程度の長さにあらかじめ重合されたPMMAなのです。
で、白い粉の方に重合開始剤が入れられていて、これが、いったんMMAの二重結合を攻撃してフリーラジカルを作ると、そこからどんどんチェインリアクションが進んでいくのです。
そして、このチェインリアクションは、一番端のフリーラジカルにたとえば水素原子などがくっつくと反応が止まります。人為的にチェインリアクションを停止するために使う物質のことは、ターミネーター(重合停止剤)と呼ばれています。
さて、化学の世界ではターミネーターのような存在がないと、いつまで経ってもチェインリアクションがとまらず、大変なことになってしいます。ところが、人で構成する組織を変革していこうとする際に、こうしたターミネーターのような存在は、しばしば邪魔者となります。
ジーニー・ダック『チェンジモンスター なぜ改革は挫折してしまうのか?』[東洋経済新報社]によれば、組織を変革していくのは、一直線にはかなわず、山あり谷ありの「チェンジカーブ」(企業変革カーブ)を通ると言います。そして、その途中にはチェンジモンスター(変革をかきまわす怪物)が潜んでいるのです。
チェンジカーブとチェンジモンスター |
ジーニーによれば、組織変革を進めているときに、さまざまな抵抗に遭うが、その中でも気づかれないことが多いが、非常に重要な意味をもつのが組織内の感情的な側面なのだそうです。
この感情とは、恐怖、好奇心、疲労、忠誠、偏執、落胆、楽観、激怒、驚き、喜び、愛情などの、より本質的な心のあり方をさしています。
たとえ、管理運営上のあらゆる数値や情報を把握していても、組織内部の感情面に関するデータをつかんでいなかったら、企業を立ち直らせることはできないのだそうです。「感情」は、売上高や経常利益など「目に見える」数字と同様、組織の状態を示すうえで意味のある「データ」であると考えるべきなのです。
組織を変えるということは、本質的かつ不可避的に、人間の感情にかかわるプロセスなのですね。そして、この感情をもつのは人ですから、チェンジモンスターとは、結局は、人間関係のもつれ、と言い換えてもよいかもしれませんね。
組織の変革を遂行するためには、こうしたチェンジモンスターとの闘いは避けられないようです。