2013年6月19日水曜日

吸気時のCO2にも気を配ろう

 トム・ハンクスらが主演した『アポロ13号』(1995年 ロン・ハワード監督作品)の中に、二酸化炭素の恐ろしさを描いた場面があります。

 アポロ13号は、1970年に打ち上げに成功しますが、月到着前に突然船内で爆発事故が発生しました。ヒューストン管制センターでは、アポロ13号を地球に戻そうと、職員が不眠不休で必死の救出作戦を展開します。その過程で、帰還の際の電力を温存するために、空調設備を止めるという方法がとられました。
 すると、狭い船内なので、じわじわと空気中の二酸化炭素濃度が上昇してきます。そのまま放置すれば、乗り組み員の命に関わるという危機的状況下で、宇宙船内にある物や道具を使って、二酸化炭素を除去する装置を地球上のスタッフが総出で考え出します。そして、その装置の作り方を乗り組み員に伝えて危機を免れた、という場面です。


 人が、長く息を止めていられないのは、酸素不足が原因なのではなくて、二酸化炭素が上昇するためだと言われています。人は、体内でできた二酸化炭素を適切に吐き出さないと生きられないのです。

二酸化炭素吸収装置
二酸化炭素を吸収するとソーダライムが
紫色に変色します


 全身麻酔中は、麻酔器と人の肺は管でつながれていて、新鮮なガスが流入し、余剰ガスが排気されています。この回路の中で、人が吐いた呼気ガス中に含まれる二酸化炭素は、ソーダライムを満たした二酸化炭素除去装置で取り除かれます。これによって、全麻の間、吐いた二酸化炭素を再呼吸することなしに、呼吸を続けられているのです。

 最近、デスフルランを使うときには、低流量麻酔をすることが増えてきました。すると、回路内に滞留する二酸化炭素の量が増えて、ソーダライムが疲弊しやすくなります。ソーダライムは、二酸化炭素を吸収すると色が紫色に変化しますが、いよいよ二酸化炭素吸収能がなくなると、二酸化炭素を再呼吸するようになります。



 呼気ガスモニターというのは、人が吐いた呼気中の二酸化炭素濃度を連続的に測定する機器です。ソーダライムが完全に二酸化炭素を吸収していれば、吸気中の二酸化炭素濃度はゼロです。しかし、ソーダライムの吸収能が落ちてくると、この吸気二酸化炭素濃度が、じわじわと上昇してきます。

吸気二酸化炭素(ImCO2)は
6 mmHgになっています
ソーダライムを新しく取り替えると
ImCO2は1 mmHgまで低下
やがてゼロになります













 モニター上の連続グラフで見ると、吸気時にあたる谷の部分の基線が上昇してきます。この吸気二酸化炭素濃度が5〜6mmHg程度になれば、そろそろソーダライムの交換時期なので、呼気ガス二酸化炭素(etCO2)ばかりでなく、吸気時の二酸化炭素濃度にも注意をはらうことが大事です。(上の例は、ウロの腹腔鏡手術時のもので、そもそもetCO2が高すぎますね。でも、今後、低流量麻酔下の腹腔鏡手術が増えてくるとソーダライムの疲弊も早まりそうです)