2013年1月18日金曜日

蝋梅や薄雪庭を刷きのこす

 正月を過ぎて、葉を落とした蠟梅の木に、黄色い花が咲きました。今朝は、粉雪の降る中で、甘い芳香を放っていました。
うっすら雪化粧をした蠟梅の花

 この蠟梅は、ボルネオール、リナロール、カンファー、ファルネゾール、シネオールなどの精油成分が溶け合って、独特の甘い芳香を放っているのだそうです。
 
 英語名は、Wintersweet。やはり、甘い香りから命名されています。

 蠟梅という命名は、香りではなく、蠟のような光沢をもった、その花弁の性状からつけられているようです。





 香りといえば、こんなエピソードがあります。
 1846年に、アメリカはボストンにあるマサチューセッツ総合病院でエーテルを使った公開手術を披露したとき、麻酔を担当したウィリアム・トーマス・グリーン・モートンは、エーテルにオレンジのフレイバーをつけていました。
 彼が、エーテルにオレンジの芳香をつけていたのは、エーテルの匂いを消すためというよりも、それ以前から知られていたエーテルというありふれた薬物を使用しているということを隠す意味合いがあったようです。その証拠に、彼は、当初自らが使用した麻酔薬をエーテルとは呼ばず、わざわざ「レシオン」という怪しげな名で呼んでいました。いかにも自分が新薬を開発したかのような印象を与えるためだったのでしょう。その後の公開麻酔で、その主成分がエーテルであると明かした後も、モートンは、自らが用いた麻酔薬の特許をとるために奔走していたようです。結局、特許の申請は通らず、エーテル麻酔で一山当てようというモートンの思惑は果たされませんでした。(ジェフリー・M・フェンスター『エーテル・デー 麻酔法発明の日』[文春文庫])


ロバート・ヒンクリーの絵とヴァンダム博士(1997年撮影)
博士の身長が170cmくらいなので、絵がいかに大きいかが分かりますね。
絵の中央やや左よりに両手で「麻酔器」をかかえているのが
W.T.G.モートンです。
 W.T.G.モートンは、麻酔薬「レシオン」で財産を築くことはできませんでしたが、ロバート・ヒンクリーが描いた”The First Operation Under Ether”という壁画サイズの油絵によって、歴史に名を残すことになりました。

 この絵は、ハーバード大学医学校のカウントウェイ図書館の壁に飾られています。










 表題の「蠟梅や薄雪庭を刷きのこす」は、明治から昭和にかけて活躍した水原秋桜子(みずはら しゅうおうし)の俳句です。水原秋桜子は、産婦人科医でもありました。