きれいな朝焼けでしたが、夕方からは、雪になりきれなかった冷たい雨が降り出しました。
井上知子さんは臨床心理士をされています。京大や香川大学で、数学の先生として20年間教鞭をとられた後、心理学を勉強されました。現在は、起業した人や起業を目指している人(とりわけ女性)のメンタルサポートをされています。
井上さんは、心理学を学ぶ中で、アドラー心理学に出会いました。アルフレット・アドラーは、フロイトと同時代に活躍したオーストリアの心理学者ですが、日本ではフロイトほど知名度がありません。しかし、ヨーロッパでは、フロイト、ユングと並んで三大心理学者の一人とされているそうです。
井上知子『人づきあいがラクになる 「心理学の教え」』[日経BP社] |
このアドラー心理学というのは、実にユニークな考え方をします。個人の行動というのは、何らかの原因があって引き起こされる、と普通は考えます。たとえば、人にいじめられると落ち込んでイジイジするとします。この場合、いじめられたから落ち込んだ、と考えられます。ところが、同じいじめにあっても反撃する人もいます。無視する人もいます。つまり、原因が同じ(いじめにあう)であっても、個人によって反応はさまざまなのです。
アドラー心理学では、「原因」があって行動が起こるのではなくて、意識的であれ無意識的であれ、何らかの「目的因」があって、人はその目的に向かって行動を起こしていると考えるのです。だから、原因が同じであっても、その目的が人それぞれなので、起こる行動が違ってくるのです。
京都市立病院には、日常の医療行為の中で事故につながるミスが起きたとき、インシデントレポートを報告する、というシステムがあります。
このレポートの中にも、「何が原因であったか」というのを分析する項目があります。ともすれば、「こんなレポートを書く羽目になったのは何が原因であったのか」と考えたり、「そもそもオレがダメ人間だったからこんなレポートを書くことになってしまったのだ」などと考える人がいるかもしれません。
でも、アドラー心理学にしたがえば、いちばん大事なのは「何の目的でこのレポートを書くのか」ということをレポートを書く人もレポートを出せと要求する人も理解していることなのですね。
「同じ間違いを再び起こして、未来の患者さんに負担や迷惑をかけないため」あるいは「もっと安全に、スムーズに仕事をできるようになるため」といった目的の方が、本来はもっと強調されるべきなのです。
この目的意識がしっかりと職員の間に浸透していないと、いわゆる「犯人探し」や「責任追求論」に終始してしまい、レポートを書くことが義務のように感じられ、書くのがおっくうになってしまい、やがて、誰もすすんでインシデントレポートを書かなくなってしまうのではないでしょうか?