しかしながら、京都市立病院麻酔科での初期研修では、機会があれば、研修医の先生方にもラリンジアルマスク(以下LMA)の挿入を経験してもらっています。それは、LMAで麻酔をしてもらおうというのが目的ではなく、挿管に代わる気道確保の選択肢のひとつとして、LMAを使う方法があるということを知ってもらうためです。
LMA博物館の棚の前に立つ アーチ—・ブレイン博士 (J.R.Brimacombe 'Laryngeal Mask Anesthesia' 2nd ed. Saunders 2005) |
LMAはイギリスのブレイン博士が開発しました。彼のLMAに関する一番最初の論文は1983年に出ています。
しかし、このLMAの威力が世界中に認められるまでには、10年近い年月を要しました。そして、今や挿管困難のアルゴリズムでは、第一選択としてLMAが挙げられています。
ブレイン博士による世界初の LMA使用経験を報告した論文 Br. J. Anaesth. 55, 801 - 804. (1983) |
LMAで無事呼吸管理ができた 頸部悪性腫瘍症例 |
興味深いのは、ブレイン博士の最初の論文の中に、すでに挿管困難症例患者の気道確保法として、LMAが紹介されていることです。
左の写真の患者は、頸部の発達した悪性腫瘍のため、喉頭展開しても声門を確認できませんでした。しかし、筋弛緩薬を用いることなく、喉頭鏡を用いずにLMAを挿入して麻酔管理ができたと、最初の論文で報告され、この時すでに、挿管困難に対してLMAが威力を発揮するであろうことが示唆されていたのでした。
極度に蛇行した主気管のため 他院では挿管による全麻が拒否されました |
この患者さんは、他院で挿管を拒否された経緯がありました。でも、LMAを用いれば、気管チューブの先端が気管壁に当たる心配がないと判断したので、麻酔を引き受けました。
この例のように、挿管困難でなくても、主気管が蛇行していて、気管挿管に抵抗を感じるような症例に対しても、第二の選択肢をもっていれば、チャレンジすることができるのですね。