2014年1月12日日曜日

附子の矢毒は食べられません

 新春恒例の初笑いおやこ狂言会に行ってきました。

 今年で26回目になるそうです。京都の大蔵流狂言の茂山一門による新春の狂言会です。金剛能楽堂という、本格的な能楽堂の舞台で毎年開催されています。



 今年の演目には「 附子(ぶす)」がありました。小学校の教科書にお話が載っていたので、初めて知った狂言でした。あまりにも有名な演目だったのですが、実際の舞台を見たのは、今日が初めてだということに気づきました。
 茂山家は京都を中心に活躍されていて、年に四回、岡崎の観世会館で市民狂言会を開催されています。大学生になって初めて京都で暮らすようになって、この市民狂言会に通っていた時代がありました。
 しかしながら、「 附子」は、今日まで舞台を見た記憶がありません。








  附子というのはトリカブトの異名。牧野富太郎博士の解説によれば、トリカブトは「徳川時代に中国から伝来し、鑑賞用として庭に植えられる多年草。根は塊状で猛毒のアルカロイドを含む」のだそうです。


 このアルカロイドは、経皮的・経粘膜的に吸収され、経口摂取してもわずか数十秒で死亡してしまう即効性があります。古来、毒矢に塗布するなどの方法で狩猟にも利用されていたのだそうです。しかし、トリカブトで射止めた獲物は、経口摂取すると食べた本人も毒にやられる可能性があるのではないでしょうか?

 その点、アマゾンのインディオが使用していたクラーレは、筋弛緩作用があり、トリカブトと同様に毒矢の先に塗布されることがありますが、こちらは経口摂取しても食べた本人の手足がしびれて動かなくなる心配はありません。






 毒のことを英語ではtoxin(トキシン)と言いますが、これはギリシャ語の”矢”を意味するtoxikon(トキシコン)に由来するのだそうです。本来は、毒矢の先端に塗る”矢毒”toxikon pharmakon(ファルマコンが毒および薬を意味しています)として使われていた言葉の、”毒”を意味する方の語が落っこちて、矢を意味する方のトキシコンのみが残って、意味は”毒”に変わった、といういささか複雑な由来をもっているようです。(長谷川栄一『医学ユーモア辞典』[ミクス]より