昨日ほどの寒気ではないものの、昨夜から降り出した雪が積もり、今日は寒い朝を迎えました。
まん中の白い三角形が大文字 |
朝、京大桂キャンパスから東山を望むと、ちょうど大文字山の大の字がある三角地帯だけが、白く雪化粧をしていました。
先週、空になったデスフルランのボトルの蓋を、注射針のキャップで押して、吹き出してくるデスフルランの臭いをかいでみました。わさびというよりは、ジエチルエーテルに近い臭いでした。セボフルランの「ほこりっぽい臭い」とは、若干異なっていました。
メチルエチルエーテル |
デスフルランの構造式を見ると、エーテル結合(R₁-O-R₂)があり、メチルエチルエーテルの一部の水素原子がフッ素原子に変わっただけなので、臭いもジエチルエーテルとさほど変わらないのでしょうね。
デスフルラン |
モートンが世界初の公開麻酔を行った MGHのエーテル・ドームの天井 |
エーテルが麻酔薬として最初に使われたのは、今から160年以上前、1846年のことでした。歯科医のモートンがマサチューセッツ総合病院(MGH)で、公開麻酔をしたときに使用したのが最初の経験でした。
19世紀半ばまでの外科手術では麻酔は使われていませんでした。当時の外科手術は、患者にとっては、まさに地獄だったようです。患者を押さえつけて、足を切断したり、膀胱結石を取ったりしていたのですから。患者は悲鳴を上げながら、自分自身の目で手術の一部始終を見ることができました。手術が決まったと聞いて自殺する人もいた、という逸話を聞いてもさもありなんと思えますね。
J.M.フェンスター『エーテル・デイ』 右は原書の表紙 |
フェンスターは、『エーテル・デイ』(文春文庫)の中で、モートンが最初の公開麻酔で使用した「エーテル吸入器」が、公開手術の当日に作られたものだった、という事実を紹介しています。モートンは、知り合いのガラス職人に依頼して、この吸入装置を作らせたそうですが、実は一度も他で試すことなく、観衆が見守る「晴れの舞台」で初めて使ったというのですから、彼の大胆さというか無神経さには恐れ入ります。
麻酔の歴史をふり返ると、笑気ガスやエーテルは、医学界で応用される以前(19世紀前半まで)、市民のエンターテインメントとして、舞台で見世物用として使われたり、富裕層のパーティなどでお遊びで使われたりしていたそうです。
そうした使われ方をしていたからこそ、「真面目な」医師たちは、臨床への応用をためらっていた、あるいは思いつかなかったのかもしれません。だとすると、「余興」と「医学」との壁を超えて笑気やエーテルを治療にも使ってみようという方向に頭を切りかえるためには、モートンのような、いささか「軽い」人物の存在が必要だったのかもしれませんね。