2013年3月26日火曜日

il novello

 ボジョレヌーボーのワインのように、オリーブオイルにも初摘みのオリーブから抽出したものがありました。昨年の秋頃に収穫されたオリーブの実から作られたもので、イタリア語で、
il novello(新物)と呼ばれています。

オリーブオイル専門店Tre cipressi
il novello
四条御前を東に少し行ったところに、Tre cipressi(トレ チプレッシィ:三本の糸杉という意味だそうです)というオリーブオイルの専門店があります。
 先日、ここでシチリア産のオリーブオイルのil novelloを買い求めました。


 パンにつけて食べると、まだオリーブの青々しい香りの残ったさわやかな味がしました。



 
 
 初摘みのオリーブオイルを味わいながら、「初心」について考えてみました。

 世阿弥の言葉に「初心忘るべからず」というのがあります。
西院のギター教室の表に掲げられた額
実は、これには三箇条の口伝があるとして、
 是非の初心忘るべからず
 時々(じじ)の初心忘るべからず
 老後の初心忘るべからず
と、「花鏡」の中で世阿弥は述べています。
 
 小西甚一氏の解釈によれば、この三つは
 批判基準となる初心を忘れてはならぬ
 自分のそれぞれの時期における初心を忘れてはならぬ
 老後の初心を忘れてはならぬ
ということだそうです。

 ここで、「初心」というのは、世間一般に解釈されているような「物事を始めたときの新鮮な気持ち」というような意味ではなく、未熟であるという意味での初心ということなのだそうです。

 未熟だということに気づき、それを認めることが芸を上達させるためには必要な姿勢であるというのです。だから、その未熟さが常に後の判断基準として活かされるのでしょう。何度くり返しても完璧ということはないわけだし、さらに困難な課題はいくつになっても目の前に現れるわけで、何歳になっても初心を忘れるわけにはいかないということを世阿弥は言ったのでしょう。

 若い研修医諸君にとっては、静脈路をひとつ確保することが大変なことです。それを失敗したのを見て、指導医が「お前、点滴するの下手やな」などと言ったとしたら、その指導医は、自分自身のその時々の初心を忘れてしまっているわけです。

 オリーブオイルやワインなら、初物というだけで味わう価値があります。つまり、初心は初心としての意味をもっているわけです。しかるに、私たち麻酔科医にとっては、そのときどきの初心というのは、あくまでそれを乗り越えるべきものととらえて、初めて価値が出てくるのではないでしょうか?

 以前に、大蔵流狂言師の故・茂山千之丞さんから色紙をいただいたことがあります。

 そこには、「伝統 それはそれを超えていくもののためにのみある」と書かれてありました。この「伝統」を「初心」と読みかえると初心を忘れてはならない理由がよく分かるように思いました。