2013年7月28日日曜日

To be or not to be. That is the question.(問題は、選択することだ)

 手術時の麻酔は、選択の連続です。

 たとえば、術中に血圧が上昇してきたときに、吸入麻酔薬の濃度を上げるのか、麻薬性鎮痛薬を追加投与するのか、硬膜外に局麻薬を投与するのか、あるいは降圧薬を投与するのか、選択肢はいくつもあります。手術時には、瞬時の判断が要求され、血圧上昇の「正確な」診断は要求されません。しかし、通常、私たち麻酔科医は、何らかの選択を迫られます。
 あえて「経過観察」すると決めたのならば、何もしないという選択肢も、あるかもしれません。ただ、「経過観察」は、どの選択肢も選べないからそうする、というのでは選択したとはいえませんね。
にんぎょひめは二本の足をもらうことを選択しました。
でも、その代わりに声を失うことになりました。
そのあやこ文・いわさきちひろ絵『にんぎょひめ』(偕成社)より


 人生もまた、選択の連続です。恋愛、受験、就職、結婚、という大きな選択ばかりでなく、晩ご飯をカレーライスにするかハヤシライスにするか、あるいは思い切って外食にするか、というのも選択です。ケチャップの銘柄をカゴメにするかハインツにするかというのも選択です。


 しかしながら、実際には、私たちは「選ぶことができる」ということ自体に気づいていない場合があって、選ぶ手前で問題を解決せずに先延ばしにしたり、ただ何となくやり過ごそうとしている場合が多いのだ、とハーバード大学で最大の人気を博した講師、タル・ベン・シャハーは述べています。

 『次の2つから生きたい人生を選びなさい』(大和書房)では、101の選択問題が提示されています。
 冒頭の「a 流れに身をまかせて生きる b 選択して生きる」の中では、「選択の力」を改めて認識してください、と呼びかけて、シャハー氏はこう言っています。

「あなたの前に広がっている可能性にじっくりと思いをはせてみましょう。そして自分に問いかけて下さい。望む人生を送るためには、何をすべきか。私はどこに行きたいのか。どうやってそこに辿りつくのか。いまある可能性を書き出して、信頼できる人と話し合ってみてください」
 そして、決して「選択肢はない」という答えは出さないように、と提案しています。

 ただし、「選ぶ」生き方をするのは、簡単ではありません。
 努力だけでなく、ときには勇気も必要となるでしょう。進んで葛藤と失敗を受け入れる態度が必要となるかもしれません。
 しかし解決策を見つけ、成功や幸せを実現するためには「選ぶ」という態度がぜひとも必要なのだ、と強調しています。

 要は、主体的に生きてみましょう、ということですね。

『フィッシュ!』(早川書房)


 シアトルにある世界的に有名なパイク・プレイス魚市場から生まれた、やる気のある社員を作りだし、職場全体を燃えたたせ、顧客を喜ばせる哲学『フィッシュ!』の中でも、その冒頭に、
 「態度を選ぶ」
という項目があります。

 つまり、「仕事そのものは選べなくても、どんなふうに仕事をするかは自分で選べる」のです。不機嫌な態度をもちこんで、憂うつな一日を過ごすこともできる。ふてくされてやってきて、仲間やお客にいやな思いをさせることもできる。あるいは明るいほがらかな顔で現れて、一日を楽しく過ごすこともできる。どんな一日を送るかは、自分で選べるのです。






 手術中の麻酔では、選択して態度を決定しなければ、患者の状態が悪化してしまう局面に頻繁に遭遇します。それも、自らの手で招いた状況ばかりではなく、手術操作や、患者の合併症など自分の意志に反して生じた状況に対して、選択を迫られる場合もしばしばです。
 してみれば、麻酔を経験するということは、ある意味「態度を選ぶ」訓練にもなっていると言えるかもしれませんね。