2014年2月8日土曜日

京都市立病院憲章から「患者様」が消えたワケは…

 夕べから降り続いた雪が、今朝は5cm以上積もっていました。でも、気温が高かったせいか、ちょっとベタベタした雪質でした。

 ところで、京都市立病院には憲章というのがあります。各職員は、この憲章を名札の裏に入れて持ち歩いています。
 この憲章は、「京都市立病院は、市民の健康を支える病院として」と始まります。そして、その第一番目に、「・患者中心の医療サービスを提供します。」という文があります。
 実は、数年前まで、この「患者」という表現は「患者様」となっていました。確かに、一時期、「患者」や「患者さん」ではなく、「患者様」と呼びましょう、という呼びかけがなされた時期がありました。最初に「患者様」という表現を聞いたときに、何故かとても違和感を覚えたものでした。どうもしっくりこなかったのです。

 以前、英文学者の外山滋比古さんが、患者様という表現に違和感がある理由を説明していたことがあります。


 「ことばの姿としても患者様は座りが悪い。人の名前につく様はよいが、一般の名詞には様がつきづらいのである。病人様とは言わない。ご病人様ならよい。依頼人様ではまずくて、ご依頼人様となる。お客様はよく熟したことばだが、客様はない。
 こういう”お(ご)…さま”はしっかりした語法になっているから、ご苦労さま、お疲れさま、ご馳走さま、ご愁傷さま、など、いろいろのことばがある。患者様に「違和」があるとすれば、頭に、おかごがついていないことによるだろう。もっとも患者様には、どちらもつけにくいから困る。」 Associé 2007.07.03






 呼吸器内科医の里見清一先生によれば、「患者さま」という奇妙な呼称は、2001年に厚生労働省が出した、次の通達に端を発するのだそうです。
 「患者の呼称は様を基本とすべし」
 おそらく、この通達にしたがって、京都市立病院でもかつて憲章の文句を「患者」から「患者様」に変更していたのでしょう。



 里見先生は、この「患者さま」という呼称に対して、なかば怒りをこめて反対されていました。
 「そもそも患者さまとはなんであるか。病気になったときに人は偉くなるはずはないので、「様」というのは、医療サービスの供給者である医療者が、顧客である患者に対して、「お客さま」として、「この病院を選んでくださって(そして診療を受けてくださって)ありがとう」という意味で使うことになる。どうして「診療を受けてくださってありがとう」なのか?医療行為で病気が良くなるのであれば、当然利益は患者側にあるので、ありがとうと言うのは患者側であろう。これが人間社会の常識である」里見清一『偽善の医療』[新潮新書])と主張しています。








 外山滋比古さんも「患者様と言われた本人たちの中にも「バカにされている感じがする」という人もいる」と言い、「粗末なベンチに何時間もまたされるのでは、患者様などと持ちあげられても、うれしくない…病院としては本当のサービスにはカネも人手もかかるから、とりあえず、タダのことばでサービスしようというのではないか、患者はひがみっぽいから、そう勘ぐる」のだと分析しています。(同上